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act.9極彩カメリア<3>

「聖くん、明日はお仕事ないんだっけ?」 聖は秋に放送が予定されているドラマへの出演が決まったらしい。そのための準備で今日の生徒会には参加出来なかった。 「あーいや、仕事はあるんですけど、朝から始まって夕方には終わる予定だって」 「そっか、じゃあ明日にする?バウムクーヘン」 彼らがオリエンのお土産として買ってきてくれたお菓子。リクエストした七瀬も誘って皆で食べる約束をしていたが、葵が学校を欠席したこともあり、具体的な日程が決まらないままだった。 「あ、でも聖くん疲れてるかな。仕事ない日にしたほうがいい?」 「葵先輩と過ごせたら元気になりますよ。早く葵先輩とイチャイチャしたいって言ってたし」 聖は西名家での勉強会に参加出来なかったことも悔しがっていた。爽のほうが葵と会っているとヤキモチも妬いている。 歓迎会の時のように爽と揉めてはいないようだし、そもそも二人は京介と都古の関係とは違い、元から大の仲良しではある。でもやむを得ないこととはいえ、どちらか一方とだけ仲良くしている状況は避けたいとは思う。 「羽田先輩にはバウムクーヘン食べたらすぐに帰ってもらいましょう。葵先輩はそのまま俺たちの部屋に居残りね」 「なにするの?」 「だから、イチャイチャ」 爽は意味ありげに耳元で囁いてくる。その声音が妙に色っぽくて、彼らと過ごした誕生日のことをいやでも思い出してしまう。ただお喋りをして過ごすだけではない気がする。 危険な予感に、京介や都古も誘うべきかを悩み出すが、それはそれで違う揉め事を起こしそうで難しい。 「二人とも、そろそろ行こう」 楽しそうな爽の笑い声に困り続けていた葵を救ったのは、実行委員の会計担当と話し込んでいた奈央だった。どうやら話し合いはひと段落ついたらしい。いつのまにか会議室には自分たちと奈央、そして窓辺で暇そうにしている幸樹しか残っていなかった。 「葵くん、今日は頼もしかったよ。頑張ったね」 帰り支度を促しながらも、こちらに歩み寄ってきた奈央はそう言って葵の頭をポンと撫でてくれる。 頼もしさなんて本当は欠片もなかったと思う。これは奈央の優しさだ。けれど真っ直ぐに労われると泣きたくなるほど安心してしまう。 会議が始まる前、奈央は不安がる葵に対し交代を名乗り出てくれた。でもそれは葵を指名した忍の意に反するし、挑戦する前から逃げ出すことは葵自身が避けたいことだった。そう伝えると、奈央は会議中過度に葵を庇ったり助けたりすることはせず見守ってくれていた。 ただ瀬戸の言い回しが難しい時や、過去の資料を参考にした程度では答えられない問いに対しては、助け舟を出してサポートに徹してくれた。 「頑張ったご褒美にお兄さんが抱っこしてあげよっか?」 それまでつまらなそうに外を見ていた幸樹も、奈央に続いて葵に笑顔を向けてくる。 彼は会議中積極的に発言をすることはなかったけれど、葵が言葉を発する時は窓の外ではなくこちらを見つめて笑いかけてくれていた。ただそれだけでも葵にとっては心強い後押しになった。 冬耶や遥が抜けた生徒会が自分にとってこれほど温かい場所になるなんて、去年の段階では思いもしなかった。この場所を守りたいし、一員としてもっと頑張りたい。 今でも時折馨の存在が脳裏にチラつく。けれど彼の手を取れば目の前の彼らともお別れをしなくてはいけないのだと思うと、自らその選択肢を選ぶことなど出来そうにない。 「ここに、居たいです」 周りにとっては唐突すぎる宣言だったと思う。それでも彼らは茶化すことなく思い思いに葵に触れ、微笑みかけてくれた。

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