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act.9極彩カメリア<4>

* * * * * * また今日も渡せなかった。オリエンが終わってもう数日が経とうとしているのに、小太郎の手元には未だに葵のために買った土産のチョコレート菓子があった。 「さっき藤沢さんと話してるの邪魔しちゃった?」 絶好のチャンスをみすみす逃してしまったことを後悔しながら寮への帰路についていると、隣に並ぶ波琉が問い掛けてくる。 「お土産渡そうとしてたんだけどさ」 「あぁ……ってまだ渡してなかったの?」 「いや、いざとなると何て言って渡せばいいか分かんなくて」 チョコレート菓子を選ぶのに付き合ってくれたのは他でもない、波琉だ。味の好みが分からない相手なら色んな味が入っているアソートパックがいいと助言をくれたのも彼。だからこそ、未だに渡せていないと聞いて呆れた顔をするのも無理はない。 「普通にオリエンの土産です、でいいじゃん」 「それはそうなんだけど、俺が渡す意味が分かんなくね?」 葵は部活や委員会の先輩ではない。観光地の浮かれたテンションで後先考えずに購入してしまったが、冷静に考えるとなぜ小太郎が葵に土産を渡すのかの妥当な理由が思いつかないことに気がついたのだ。いつもお世話になっている礼という体裁はどう考えても不自然だろう。 「んな細かいことどうでもいいだろ。考えすぎだって。サッと渡せよ、迷ってるうちに腐るぞ」 波琉の言うことももっともだ。せっかく葵の喜ぶ顔を思い浮かべて選んだものを、うだうだと悩んで渡せずにいるのもおかしい。深く考えず渡してしまえばそれで済む。葵だって、どうして自分に、なんて小太郎を問い詰めてくるようなことはしないだろう。 でも葵よりも気がかりなのは彼を愛してやまない友人たちの存在だ。 「でもさっきは爽が戻ってきちゃったし」 「それの何がダメなの?」 「だって絶対誤解させちゃうよ。俺が藤沢さんに土産渡してるとこなんて見たらさ。連絡とってんのも内緒なのに」 双子同士でもどっちが先に葵から返信があったかとか、文章が長いかとか些細なことで小競り合いを繰り返している。小太郎が葵に想いを寄せているなんて誤解をさせれば、せっかく親しくなりかけている関係にヒビが入りかねない。 「誤解、ね。それ気にしてる時点でもう決定的だと思うけど」 「え、どういうこと?」 「やましいことなきゃ悩まないだろ」 波琉は分かりきったことを聞くなとばかりに返事をするが、やましいことがないから悩んでいるのだ。ちっとも噛み合わない。 「じゃあさ、コタロー。俺が藤沢さんのこと好きになったっつったらどうする?応援できんの?」 「え、するよそりゃ。あ、でも聖と爽の応援もしてるし、そっか、どうすりゃいんだろ。難しいな」 小太郎が野球一筋だと知れ渡っているからか、今まで友人から恋愛相談を受けた経験はない。当然、友人同士が同じ相手を好きになるなんてシチュエーションにも遭遇したことはなかった。想像しただけでも相当な難問であることは分かる。 「あーあ、ダメだこりゃ」 与えられた問いに対して真摯に向き合ったというのに、波琉はますます呆れ返った様子を見せた。

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