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act.9極彩カメリア<6>

「あ、せっかくだからバーベキューする?このあいだ肉焼けなかったから不完全燃焼だったんだよね」 波琉はオリエンの昼食で作ったカレーを引き合いに出して笑いかけてきた。 「知り合いのとこならタダで使わせてもらえるし。あいつら誘ってもいいよ」 「あいつらって?」 「絹川たち」 波琉から二人の名前が出るのは少し意外だった。オリエン中共に過ごす機会もあったが、聖や爽は波琉に人見知りを発揮していたし、波琉もそれを察して距離を置いているように見えたからだ。 「さすがに俺よりは圧倒的に役員と仲良さそうだからさ。まずは上攻めるよりも、同級生から行こうかなって」 「普通に二人と仲良くしたいって言ってよ。裏がある感じで言われると誘いにくい」 「ごめんごめん」 波琉なりの目的があり、本気で役員入りを目指そうとしているのは理解出来るし応援もしている。けれど、そのために友人たちを足掛かりにするような言い草は聞き逃せなかった。波琉は小太郎の指摘に対して素直に謝罪を口にするし、二人を利用するだけ利用して切り捨てるような性格ではないことはわかっているけれど。 「藤沢さんも誘ったら来るかな?」 「だから、藤沢さんのことも変に巻き込むのはやめろって」 言ったそばから葵の名前を口にする波琉に反省の色は見えない。思わず少し強めに苦言を呈すと、彼は意外にも真面目な顔を向けてきた。 「今日初めて至近距離で見たけどさ、あの人マジで可愛いね。リスとかウサギとか、そういう小動物見てるみたいな感じ」 波琉曰く、顔の造作はもちろんのこと、会議に真剣に取り組む姿を可愛いと感じたらしい。確かに小太郎も似たようなことは思っていた。 委員長である瀬戸は小太郎にとっては親切で頼り甲斐のある先輩だったが、葵に対しての態度にはなぜか随所にトゲを感じた。そんな瀬戸に怯みつつも懸命に応答している葵の姿は、思わず“頑張れ”と応援したくなる可愛さがあった。 「いい匂いしたし、手ちっちゃいし、柔らかいし」 「……え、触ったの?」 「たまたまね」 波琉が付け足した言葉にどうしてか胸がチクリと痛む。資料プリントの受け渡しで手が触れ合っただけと説明されてホッとする訳も分からない。 「とっくに誰かと付き合ってんのかと思ったけど、そんな雰囲気なさそうだし。狙ってみようかな」 波琉の表情からはそれが本気かどうかは読み取れなかった。波琉が誰を好きになろうと小太郎が口を出す権利はない。聖や爽の恋路とどちらを応援すればいいかの問題はあれど、友人として背中を押したいとも思う。けれど、彼に掛ける言葉は何も出てこなかった。 「なぁ、今どう思った?」 小太郎が黙り込む様子を見て、波琉は急に真面目な表情を取り払ってケラケラと笑い出した。ようやくからかわれたのだと気が付く。 「それが答えなんじゃないの?」 「……なんの答え?」 小太郎が聞き返すと、波琉は大袈裟なぐらいガクッと肩を落とした。 「とりあえずチョコレート腐る前にちゃんと渡せよ。連絡先知ってるならいつでも会えるじゃん」 「そっか、うん、そうだな」 すっかり忘れかけていたことを思い起こし、小太郎は隣席に置いた鞄に視線をやった。 葵は喜んでくれるだろうか。自分だけに笑顔が向けられることを想像しただけで信じられないほど心臓がうるさく鼓動を始める。 「いいねぇ、野球馬鹿の青春」 波琉は小太郎の様子を茶化すように笑い続けるが、彼が一体何を揶揄したいのかが分からなかった。今はとにかく葵にどう連絡するか、しか考えられなくなる。 いきなり会う約束を取り付けるのではなく、まずはチョコレートが好きかどうかを確かめたほうがいいだろうか。波琉に相談すると、彼はまた声を上げて笑い出したのだった。

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