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act.9極彩カメリア<7>
* * * * * *
部屋を移ってから目に見えて食欲が落ちていた葵。学校を休むほどの熱まで出していて心配したけれど、週末を経て少し元気を取り戻したようだ。相変わらず食べきれない分を都古に手伝ってもらってはいるが、顔色はそれほど悪くないように思う。
「奈央ちゃん、手止まってんで。見惚れんのも大概にしとき」
「え?あぁ、いや、そうじゃなくて」
さりげなく様子を窺っていたつもりが、箸の進みが遅くなっていたらしい。隣に座る幸樹から茶化すように指摘され、慌てて葵から視線を逸らす。
「体調が戻ったみたいで良かったなって思って」
「そーね。昨日は月島に添い寝してもらってよく寝れたみたいやし」
幸樹はそう言ってテーブルの対極に座る櫻に視線をやった。
演奏会を終えて久しぶりに櫻が夕食の場に混ざってきたが、幸樹が同席することにはあからさまに嫌な顔をしてみせた。そして抗議のつもりか、葵から遠くなることも厭わず一番端の席を選んだ。
自室に帰らないだけマシになったと受け取るべきか、いくらか丸くなったとはいえ相変わらずと思うべきか。
幸樹はいつものことと特段気にしていない素振りだけれど、彼らの問題もいつかは解決してほしいと願う。櫻が幸樹に対して何を怒り続けているのかも分からないのだから、こちらは仲裁のしようもないところが難しいところである。
「で、今週末は?藤沢ちゃん忙しいって?」
幸樹に問われて、プラネタリウムの件が全く進んでいないことを思い出した。館長や草間と共に掃除に勤しんでいたというのに、葵を誘うという肝心のことが出来ていなかった。
「あ、ごめん、まだ聞いてないや」
「……なんやねん、俺ばっかはしゃいでるみたいで恥ずかし」
幸樹は三人で出掛けることを本当に楽しみにしてくれているらしい。奈央が積極的に動いていなかったと知って、珍しく拗ねたような顔をする。
幸樹は明るく飄々としているキャラクターを装ってはいるが、それが本質ではない。だが、こうして週末の予定を心待ちにしている様子は演技でもなんでもなく彼の素に思えて、奈央を安堵させる。
「あとで一緒に誘おうよ」
今声を掛ければ、この場にいる全員の耳に入ってしまう。やましさは欠片もないけれど、葵はあのプラネタリウムの存在を公にはしていないのだから配慮は必要だ。
奈央の提案で幸樹は再び笑顔を取り戻してくれた。館長には高校生であることを疑われていたけれど、そうして笑うと年相応の友人に見える。いつもそうしていればいいのにと思うけれど、そこまで踏み込めばきっと幸樹は嫌がるに違いない。
プラネタリウムの件を解決してもらって思うには図々しいかもしれないが、せめて彼がこの学園ではただの高校生で居られるようにと願うばかりだ。
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