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act.9極彩カメリア<9>

「お兄さんの部屋になーんもないのも心配してくれてたもんな」 「はい、そしたら皆でお揃いの買えますね」 どうやら幸樹とも個別で会話をしていたようだ。好みがバラバラな三人が揃いのものを持つなんて不可思議なはずだけれど、葵が真ん中に居るだけでしっくりくる気がしてしまうのはなぜだろう。 「買い物もそうだけど、プラネタリウムの話もしてたから一緒にどうかなって」 奈央は一番の目的地を口にしながら、先日幸樹にもらった招待券を差し出した。葵の目がますます輝き出す。 葵が奈央をプラネタリウムに連れて行ってくれた時、幸樹は歓迎会での失態を悔やんで姿を消していた最中だった。葵が湖に飛び込んだことを思い出しても、往生際悪くずるずると逃げ回っていた幸樹を葵がどれほど心配していたかはよく知っている。 だからこうしてあの時の約束を果たせることが嬉しくて仕方ないのだろう。 「もしも遥さんと予定があるんだったら、その翌週でもいいし。無理はしないでね」 奈央や幸樹にとって楽しみな予定であることは間違いないが、学校でいつでも会える自分たちと違い、一時帰国中の遥との時間を優先したい気持ちは尊重したい。だから奈央が気遣いの言葉を付け加えると、葵は表情を曇らせた。 「週末は遥さんと何にも約束してないんです。もしかしたら帰っちゃうのかも」 遥が帰国してもうすぐ十日が経つ。そろそろ、と葵が不安に思うのも無理はない。 「だから次の日曜日で大丈夫です。何にも予定がなかったらきっと寂しくなっちゃってたので、誘ってもらえて嬉しいです」 遥との別れを思い描いて滲ませた悲しみを無理やり振り払い、葵は笑顔を向けてくる。それが嘘だとは思わないけれど、強がってはいるのだと感じる。 「なぁ、藤沢ちゃん。お兄さんの部屋に必要なもの他にあると思う?」 葵の腕を引いて自分の膝の上に招いた幸樹は、遥のことを引きずるような話題は続けず、楽しいところにだけ目を向けさせることにしたようだ。 「えっと、必要なものばっかりだと思います」 「そーお?なら、藤沢ちゃんに色々選んでもらおっかな」 ベッド以外の家具すらまともに置かれていない部屋の様子は葵もよく把握しているようだ。 奈央はあの部屋を見るたびに、すぐにでも学園から立ち去れるように身軽な状態にしているのだと思えて心苦しさに苛まれていた。でもそれを本人に言及することは出来ずにいた。介入しようとすれば、それこそ幸樹はどこかに消えてしまいそうだったから。 けれど、葵への想いを受け入れた彼は、自らあの部屋を彩ろうとし始めている。葵を元気づけるための軽口かもしれないが、それでも幸樹がこの学園に留まろうとしてくれることが嬉しかった。 葵の存在は生徒会のメンバーを確実に光の差すほうへ導いてくれている。 冬耶は葵が実父の手を取ることを恐れていたが、きっとあの話を聞いた誰もが同じように恐怖を抱いている。葵がここから居なくなるなんて想像したくもない。全員が暗夜に灯火を失うような状態に陥るだろう。 幸樹が口にする冗談に笑い転げる葵を見つめながら、一人思案していた奈央はふと気が付く。 忍が葵に代理を頼んで来年度へのステップを踏ませたのは、葵がこの学園に留まる理由を一つでも多く増やさせたかったからではないか、と。馨の手を取り、この学園を去るなんて結論を安易に出させないように。 奈央の考えすぎかもしれないけれど、自分の予測は的外れではない予感がした。

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