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act.9極彩カメリア<14>
「そんなもんあげちゃダメ。没収ネ」
「あ、はい、ごめんなさい」
元々子猫に舐めさせるつもりはなかったのだけれど、葵の手に乗った飴玉を取り上げる若葉に逆らうことはしなかった。その態度が面白かったのかもしれない。若葉はニコリと笑いかけてくる。
皆の評価通りなら会話など出来ない、暴力的な人であるはず。目の前で都古を無慈悲に蹴り上げたことを忘れたわけでもない。でも子猫をあやす仕草は優しい。こうして葵に笑いかけてもくれる。何が本当の彼なのかが分からなくて、ただ混乱するしかない。
「で、葵チャンさ、なんで無視すんの?」
「無視、ですか?」
戸惑いのまま彼を見上げていると、笑顔のまま質問を与えられた。
ベランダで彼を見掛けた時のことだろうか。それともパーカーを返せと言われたままにしていることか。
「九夜さんのパーカーなら、お兄ちゃんが返すって言ってて、それで」
「西名じゃなくてお前に返しに来いって言わなかったっけ?」
表情は変わらないが、声音に怒気が混ざったのは分かる。それが尚更葵を怖がらせた。
「まぁいいや。そのあとは?」
「九夜さんが裏庭にいたときのことですか?」
「んー、それもそうだけど。そっか、お前ホントに忘れっぽいのネ」
若葉は子猫を地面に放すと、代わりとばかりに葵の髪に触れてくる。怖いと感じるはずなのに、なぜかその指先にくすぐられると心地よいと感じてしまう。彼の香りももっと嗅いでいたいと思う。思わず身を寄せるように目を瞑れば、若葉はまた笑い声を上げた。
「そもそも俺がパーカー貸してやったってのもまだ思い出せてないの?寒いってワガママ言ったくせに?」
彼が葵と出会ったという倉庫での出来事なら断片的に覚えている。一ノ瀬に捕らわれ、彼に体を弄ばれた記憶はついさっき呼び起こしたばかりだ。でも若葉がいつ現れ、そしてなぜ葵にパーカーを貸してくれることになったのかは全く思い出せない。
助けてくれた相手であることには違いない。感謝を忘れ、彼から借りたものを返さないままでは怒られるのも当然だろう。
「じゃあさ、あの日のビデオ見たら?」
「……ビデオ?」
「それも知らないんだ」
若葉は葵と視線を合わせるように目の前にしゃがみこんできた。金色の鋭い瞳に見据えられると、目が逸らせなくなる。
「あいつ、葵チャンとエッチなことしてるとこ隠し撮りしてたんだって。あとで何度でも見返せるようにだろーネ。それに俺も映ってるはずだから」
若葉の言葉が耳には入るけれど、正確には理解出来なかった。
あの夜の出来事が映像として残っている。それは一体どういうことなのか。恐ろしい事実であることは分かるけれど、思考回路が全く機能しない。
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