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act.9極彩カメリア<15>
「“お兄ちゃん”が持ってるらしいヨ。探してみ?多分SDカードに入ってるだろーから。んで、それ持っておいで。俺も見たいし」
若葉に抱き寄せられてもロクな抵抗が出来なかった。さして強い力で引っ張られたわけでもないのにだ。囁かれた言葉も耳鳴りのように響いて溶けていく。
「葵チャン?聞いてる?」
問いかけにはなんとか頷いてみるけれど、それが精一杯だった。喉がヒリヒリと乾きを訴え、声などまともに出せそうもない。
彼の言うとおり、冬耶がそのデータを持っているのだとしたら、彼はきっと中身を確認しているだろう。何があったかは体の状態で察していたと思っていたけれど、鮮明な映像として見られているなんて思いもしなかった。
他の誰でもなく、冬耶がそれを見たということが葵を動揺させる。
心は嫌悪しているはずなのに体はちっとも言うことを聞かなくて、四肢を拘束されながらも浅ましく快楽を追い続けていた。そんな自分の姿は記憶の欠片として残っている。冬耶はどう思ったのだろう。
それまでと全く変わらぬ態度で接してくれていることが、余計に葵に居た堪れなさを感じさせた。
「上手に持ってこれたらネクタイ返してあげる。パーカーはもういいヨ。分かった?」
混乱したままで反射的に頷いてしまうと、若葉は満足げに笑った。
「じゃあいい子の葵チャンにはご褒美」
若葉はそう言ってさっき葵から取り上げた飴の封を破って自らの口に放り込む。なぜそれが褒美になるのか分からないまま彼の唇を見つめていると、段々とそれが近づいてきた。身を引く間もなく受け入れさせられ、また彼が笑ったのが分かる。
「……んッ、ぁ」
唇を割って入ってきたのは飴玉と彼の舌。途端に甘酸っぱいレモンの味が口内に広がった。
飴玉を柔い粘膜に押し当てるように器用に動かされると、舌だけで弄られるのとは違った感覚に背筋がぞくりと震わされる。溺れないように彼が纏うシャツを掴んだのだけれど、それを合図にますます容赦無く飴玉が暴れ回ってくる。
それだけではない。あろうことか若葉は葵の背を支えるのとは別の手をジャージの裾に滑り込ませてきた。
「……ん、んーッ」
迷わずに這い上がってきた指にキュッと胸を摘まれて、葵は驚きのあまり飴玉を飲み込んでしまった。すでに元のサイズから大分小さくなっていたから苦しさはなかったけれど、二人分の唾液の量にむせ返りはする。
「そういう逃げ方あんのか。意外と賢いネ、葵チャン」
空咳を繰り返す葵の頭を、若葉は褒めるように撫でてくる。わざとやったわけではないが、結果的にキスをやめてくれたのは助かった。
「やっぱそういう顔してるとそそるわ。今日は鍵開けとけよ」
自分がどんな顔をしていたのか確認しようがないけれど、若葉は機嫌良く言い残して立ち去っていった。そのあとをクリーム色の子猫が追いかけて行く。
「鍵って……どこの?」
燃えるような赤い髪が消えた方角を見つめながら、葵は彼が残した指示の意味を問う。でも当然のように答えを与えてくれる者は誰もいなかった。
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