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act.9極彩カメリア<16>

* * * * * * 放課後になると葵は迎えにやってきた爽と共に生徒会室に向かおうとする。ジャージに着替え始めた都古には心配そうな目を向けてくるが、数日の猶予を与えるという約束は守ってくれるつもりのようだ。止めることは言わずにただ手を振るだけに留めてくれた。 「葵ちゃん、なんだって?」 都古と同じようにジャージ姿になった七瀬が横につくなり、問い掛けてきた。 彼が確認したいのは、体育の授業中に葵の様子がおかしくなった理由だろう。確かに都古はあの授業のあと、昼食の時間を少し割いて葵と二人、会話する時間を設けた。 でも葵の気分が悪くなった要因はなんとなく察しがついていたし、それよりも都古にはもっと確かめるべきことが生じていた。熊谷と体育倉庫に行っていたはずの葵が、なぜ若葉の匂いを付けて帰ってきたか。 若葉が猫好きらしいなんてどうでもいい情報を教えてきたぐらいだから、危惧するような暴力は振るわれなかったのだとは思う。でもただ一緒に子猫を可愛がっただけなんて話を信じろというのは無理な話だ。 「ねぇってば」 返事をしない都古に焦れた七瀬がジャージの裾をぐいぐいと引っ張ってくる。 「関係ない」 「は?こっちは葵ちゃんの親友なんですけど?関係ないわけないじゃん」 都古が何の気なしに発したあしらいは、七瀬の逆鱗に触れてしまったらしい。普段は垂れがちな目を吊り上げて怒りを露わにしてくる。 七瀬をないがしろにする気はなかった。若葉と自分との問題だと思っての発言だ。 普段であれば釈明せずに七瀬を怒らせたままにしておいたと思う。ただ今は状況が違った。七瀬にリレー選手の件で相談を持ち掛けなければいけない立場。昨日はイマイチきっかけが掴めなかったが、今日こそはと考えていたのだ。ここで彼の機嫌を損ねれば、うまく事が運ばない可能性が出てくる。 「ごめん」 謝罪を口にすると、七瀬は一瞬驚いたように目を見開いた。都古がこんな風に折れたことなどなかったからだろう。 「もー、謝られたら七が悪いみたいじゃん、調子狂う」 口では文句を言いつつも、七瀬の表情はどこか嬉しそうに見えた。謝ったら謝ったで不満だなんて我儘にもほどがあると思うけれど、怒りが収まったようならそれでいい。 「綾、聞いて!都古くんが謝った!」 廊下で合流した綾瀬に喜び勇んで報告しに行く意味も分からない。いきなり報告された綾瀬だって困るだろう。そう思ったのに、都古に負けず劣らず表情の変化に乏しい綾瀬まで、なぜか笑いかけてくる。 今日も七瀬は都古の“マネージャー”として練習に付き添い、綾瀬はさらにそんな七瀬を見守るためについてくる。暇でどうしようもないにしたって、こんな時間の潰し方は全く理解が出来ない。部屋にこもっているほうがよほどマシだと思うのに。

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