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act.9極彩カメリア<19>
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江波の話通り、ドラマ内のアイドルグループを動かす話は急ピッチで進み出していた。元々ドラマの撮影に合わせて制作を進めていた楽曲のスケジュールを大幅に前倒し、完成次第レコーディングや振り入れを行うらしい。
それまでに出来ることを、と今日はメンバー全員での顔合わせと基礎練習という名の実力診断が実施された。
江波は駆け出しの俳優の集まりと言っていたが、歌もダンスも全くの未経験者は聖だけだった。ドラマの主役はミュージカル俳優に憧れて芸能界入りをしただけあって基礎的な能力は高かったし、他にも元々アイドルグループでの活動経験があったり、事務所に付属したスクールでレッスンを積んでいたりする者ばかり。
持ち前の運動神経の良さでなんとかついていけたが、底辺からのスタートであることには違いなかった。
「聖くん、お疲れ様」
レッスン着から私服に着替えてスタジオを出ると、他事務所のスタッフと話していた江波が真っ先に気が付いて声を掛けてきた。他にも担当している子がいると言っていたが、江波は聖に付きっきりで面倒を見ようとしている。
「こちら、彗くんのマネージャーの高田さん」
「どうも」
隣にいる小柄な女性を紹介され、聖は軽く会釈を送った。
彗はグループの中では聖とのシーンが特に多いと聞いている。全体としては六人組だけれど、主役を演じる司、彗、聖三人でのユニット曲もあるらしい。特に売り出したいメンツということなのだろう。
本来ならありがたがる話だろうが、今の聖にとってはプレッシャーにも感じる状況だった。
「うちの彗、何か言ってました?」
「何かって……?特に何も。挨拶ぐらいはしましたけど」
高田に問われた意図が分からず、戸惑いながらただ事実を告げる。
顔合わせでそれぞれ簡単な自己紹介を行いはしたが、そのあとはインストラクターの元でひたすらレッスンを行うだけの時間だった。元から顔見知りらしきメンバー同士は休憩時間に会話をしているようだったが、聖は誰にも話しかけられなかったし、こちらからも声を掛けなかった。
「あー、やっぱり。彗ってば内弁慶だからなぁ。せっかく聖くんに会えたのに」
聖の返答は予想通りではあったようだ。高田は困った顔をして笑いかけてくる。その理由は彗が少し遅れて控え室から出てきたことで判明した。
「……もしかして話しちゃった!?」
彗は聖と高田が並んでいるところを見て慌てた様子で駆け寄ってくる。
こうして一緒になるまで名前は知らなかったが、彗のことはファッション誌で見かけたことがある。二十代のモデルと並んでいても違和感がなかったから、まさか聖の一つ下だとは思わなかった。だがこうしてマネージャーに詰め寄っている姿を見ると、六人組の中で最年少であるというのも頷けるほど子供っぽく感じるから不思議だ。
「まだ何も。自分の口でちゃんと言いたいでしょ?ほら」
「あーもう、心の準備ぐらいさせてよ。今日はやめとこって思ってたのに」
彗は高田に背中を押されながら、どこか照れた様子で聖に向き合ってきた。こうして真正面から見据えると、彗が思ったほど身長が高くないのだと分かる。けれど年齢を考えても、手足の長さを見ても、これからさらに伸びるのだと容易に予想ができた。
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