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act.9極彩カメリア<22>

* * * * * * バウムクーヘンを人数分に切り分け、カップを用意したところで廊下に面した扉が勢いよく開かれる。 「葵先輩!」 爽や七瀬たちが居るにも関わらず、名前を呼ぶのも、真っ直ぐに視線が注がれるのも葵ただ一人。でもそれは仕方ない。仕事の比重を増やすと決意した聖は、ここのところ葵に満足に会えない状況を我慢していたのだから。 傍で聖の頑張りを見守っていた爽は、今ぐらいは口を挟まず好きにさせてやることにした。 「おかえりなさい、聖くん」 「ただいま、葵先輩。あー、帰ったら先輩がいるとかマジで幸せ」 迷いなく葵を抱き締めに向かった聖は、この上ない幸福を噛み締めているようだ。葵もそれを嬉しそうに受け止めているけれど、調子に乗って首筋や頬にキスしだしたのはどうかと思う。 「ねぇ、早く食べようよ。ずっと待ってたんだから」 そろそろ引き剥がそうかと思った矢先、七瀬が空腹を訴えたことでなんとかその場の空気が変わった。聖は葵に抱きついた流れのまま隣を陣取るから、爽も慌てて反対側のポジションを確保する。 「今日は都古くんも先輩たちも居ないんだから、そんなに慌てなくても葵ちゃんの横取られないって」 その様子を観察していた七瀬は呆れた顔をしてくる。確かにその通りではあるが、七瀬の存在こそ油断ならない。こちらをからかうつもりか、それとも単純に葵とくっつきたい気分なのか。いずれにしても時々ランチで葵の横を奪い合う戦いに参戦してくるのだ。 恋人がいるくせに葵のことも譲ってくれないなんて、食い意地が張っているだけあって欲張りな先輩だ。 この奇妙な組み合わせで過ごすおやつの時間は、想像以上に楽しいものだった。 てっきりバウムクーヘンだけが目的だと思っていた七瀬は、オリエンの思い出話を聞きたがってくれたし、それに合わせて自分たちが一年生の時の話も教えてくれた。全員共通の話題として体育祭の話も上がったけれど、ここでも過去の彼らの様子を聞かせてもらえるのが嬉しかった。 「え、それじゃあ葵先輩はずっと西名先輩に抱っこされてたんすか?」 「抱っこじゃなくて、肩車ね。そのほうがカゴに近くなるから」 一年の恒例行事である玉入れの攻略法はかなり斬新なものだった。葵はそれが作戦だと言い張ってくるが、可愛い幼馴染が揉みくちゃにならないように京介が避難させてやっただけだと思う。 その証拠に、七瀬は葵の投げた玉がちっともカゴに入っていなかったことを打ち明けてきた。

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