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act.9極彩カメリア<24>
「葵先輩は居残りって言ったでしょ」
校門まで七瀬たちを送りたがる葵を引き留めると、困った顔がこちらを見上げてくる。せっかく葵を独占出来る貴重な時間を得られたのだから簡単に逃がすわけもない。
「泣かせたら許さないからね」
「「はーい」」
七瀬は爽たちが何を企んでいるのか察して釘を刺してくるが、気の無い返事でやり過ごす。泣かせるつもりなんて微塵もない。ただ衰弱していた名残がある葵を全力で癒したいだけ。
「二人とも夜ごはんは?」
「今は平気。それより葵先輩のこと食べたいかも」
逃げてしまいそうな葵を抱き寄せながら耳に齧り付くと、面白いぐらい瞬時に赤く染まる。葵にとってはただ可愛い後輩というだけでなく、男として意識してもらえているのだと期待していいのだろうか。
元いたソファに連行し聖と挟むように座り込むと、葵はますます困った顔になった。
あの夜起こったことを事細かに聞いたわけではないが、直後の都古の暴れ方や京介の憔悴っぷりを見れば一ノ瀬が何をしたのかおおよその見当はつく。だから恐怖心を抱かせることだってもちろんする気がない。
ただ葵はあのあと都古にキスマークを与えたようだし、生徒会の先輩たちからのキスを受け入れている様子を見掛ける。日常のスキンシップぐらいは許容範囲だと予想していた。
「ねぇ、葵先輩。チューしたいって言ったら嫌?」
ストレートに尋ねると、葵の頬がますます赤くなる。キスの感触を思い出したかのように唇に力が入るところも可愛らしい。今すぐに奪いたくなるのを堪えながら、葵の返答を待つ。
でも葵がもたらしたのはイエスでもノーでもなかった。
「二人はしないの?」
「「はい?」」
「だから、二人ではしないのかなって」
質問の意味は分かるが、何を確認したいのかがイマイチ理解出来ない。葵以外の人としないでほしいなんて嫉妬でないことは明らかだが、何をどうしたらその質問に行き着くのだろうか。
「だって、七ちゃんは綾くんとしかしないっていうから」
「あのね葵先輩、あの人たちは特殊なケース。双子だからって俺たちはしませんよ」
七瀬のせいで生まれた疑問のようだが、やはり葵はどこかずれている。聖が丁寧に教えてやっても、まだ疑問を抱えている顔をしてこちらを見上げてくるのだ。
「聖とじゃなくて葵先輩としたいって話をしてるんすよ。で、俺らが聞きたいのはそれがOKかどうか。それだけ」
両側から葵に迫ると、蜂蜜色をした瞳がじんわりと潤んでいく。万が一これでノーなんて言われたら簡単には立ち直れそうにないが、幸い、葵は消えそうなほど小さな声で“嫌じゃない”と答えてくれた。
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