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act.9極彩カメリア<31>
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例年の体育祭では応援団を率いるのは生徒会長と副会長の役目だった。興味はないながらに体育祭の光景を見てきたからそのイメージではいたし、自身が生徒会長を務めることになった時にはあの役目を負うのだと覚悟もしていた。だが往生際の悪い相棒のせいで、今年度は大きく趣向を変えることになった。
今日は衣装合わせという名目で家庭科室に呼び出されたわけだが、そこには過去の団長が身につけていた学ランとは大きくかけ離れたものが用意されていた。
「うわぁ、すごいね。忍、これ着るの?」
「他人事みたいに言うな。お前も似たようなものだろう」
絢爛豪華な軍服モチーフの衣装を前にうんざりした顔をしていると、櫻が茶化すように声を掛けてくる。
彼が学ランは似合わないとか、応援団の先頭で声を張り上げて演舞を行うのは嫌だとか、そんな我儘を言うからこうなったというのに。
「お二人はやはりキングとクイーンというイメージが強いので、それをデザインに落とし込んでみたんですけど、いかがですか?」
恐る恐ると言った雰囲気で、今回衣装制作を請け負った家庭科部の部長、仲原が尋ねてくる。彼は本来こうした装飾の多い凝った服を作るのが好みらしい。去年の文化祭で生徒会の役員たちを着飾らせたのも彼だと聞いていたが、目の前の衣装を見て納得がいく。
「クイーンなのにドレスじゃなくて軍服でいいの?」
「着ていただけるんですか!?」
自分に宛てがわれた純白の軍服を手に取りながら、櫻は仲原をからかって遊び始める。女性的な印象を与える櫻ならば、仲原が好むフリルやレースたっぷりのドレスもよく似合ってしまうだろう。櫻が身につけている姿を想像したのか、仲原の目は今までにないぐらい輝いている。
体育祭まで時間に余裕があるわけではない。今回の衣装だって、例年通りの学ランを途中まで仕立てていたところに、変更のお達しがあって急遽対応してくれたものだ。でも櫻が一言着ると言えば、彼は一からでも作り直す気でいそうなのが恐ろしい。
「着ないけど?動きづらいし」
「そう、ですよね。失礼しました」
櫻があっさりと断れば、仲原はあからさまに落ち込んでみせた。一度期待してしまった手前、ショックも大きいのだろう。だが彼は基本的に真面目な生徒だ。気を取り直して改めて今回の趣旨を説明してくる。
「これは僕の目で見たお二人の体型を元に一旦仮で作ったものです。まだ本縫いもしていませんし、ここからきちんとサイズを合わせて調整していきたいと考えています。そのために今日は各所の計測をさせていただければと」
このことは呼び出しの時にはすでに聞かされていた。身体測定の結果では分からないサイズを正確に知りたいと言われて断る理由はない。だがここでも櫻はごね始める。
「それって僕をこの場で脱がせて、君がそのメジャーを使って測りたいってこと?」
「一応あちらの準備室の扉や窓にカーテンは引いておいたので、そこで」
仲原は忍たちに敬語を使ってはくるが、同級生だ。櫻が体育の授業のたびに教室ではなく別室で着替えていることも当然把握しているらしい。きちんと対策を練っているところは感心するが、それではこのクイーンは納得しない。
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