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act.9極彩カメリア<32>
「自分で測る」
「あ、えーっと、ご自身で計測しづらい部分もありますので」
仲原は記録のために用意した紙を見せてくる。そこには首まわりから始まり、肩幅や腕、胸や胴といったあらゆる箇所の名称が書かれていた。自分で測ることが不可能ではないが、正確さが損なわれてしまうだろう。
「じゃあ葵ちゃんに測ってもらう」
「……お前な。あいつには今俺たちの代わりを務めさせているんだぞ?たかだかお前の体のサイズを測らせるために呼び出すつもりか?」
基本的には好きにさせておこうと思ったが、葵の名が出されれば話は別だ。さすがに口を挟まずにはいられない。
櫻が後回しにしていたせいで、こうして会議に出る暇もなく毎日応援団のほうに顔を出さざるをえなくなったのだ。今だってそのツケが葵にまで回っている状態で、さらに彼の時間を奪うことは見逃せない。
「それなら今呼び出さなければいいってことね。ねぇ、明日までに分かればいいよね?」
今でないとまずいからこうして集まっているというのに。櫻は有無を言わさぬ口調で仲原に問い掛ける。彼に拒否する権限はない。結局この場では忍だけが計測の対象となり、明日中に櫻が記録用紙を埋めて提出することで決着がついた。
櫻が肌を晒すことも、まして触れられることもここまで過剰に嫌がるのには事情がある。葵との交流を通じて気性の荒さは落ち着いてきたように思えたが、そう簡単にトラウマは乗り越えられないのだろう。
実母から色濃く引き継いだ見た目のせいで、櫻まで淫蕩な性質をしているのではと穿った見方をする連中は月島家の内外に存在する。実際、忍の知る限りでも邪な思いを抱いて櫻に近づこうとした輩の顔ぶれはいくつか思い浮かぶ。その最たる例が実業家である目黒だ。
この学園でも色気付いてきた生徒たちから、櫻は事あるごとにそうした対象として声を掛けられていた。今でこそある程度身長が伸びたし、気の強さが知れ渡っているから迂闊に誘う者もいなくなったが、小柄で華奢な体躯だった時代にはよく可愛いだの、女の子みたいだのと囃し立てられていた。
だから櫻は安全だとみなした忍を寮の同室者に指名してきたのだ。下手な相手を選べばどうなるか予測がついていたからだろう。
どう考えても生徒会に不向きな性格である櫻を、冬耶が熱心に気に掛けていたのはそうした事情もあるかもしれないと思う。葵を守ったように、櫻のことも生徒会という箱の中に招いてやりたかったのかも、と。
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