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act.9極彩カメリア<40>

一階の奥にある和室からは兄たちの賑やかな声が聞こえる。当然その輪に混ざろうとしたが、昨日若葉から教えられたことが頭を過った。 あの夜の出来事を記録したSDカード。若葉の言葉を信じるなら、それは冬耶の部屋にあるのだと思う。葵は悩んだ末にこっそりと二階に上がることにした。こんなタイミングを逃せば一人になる機会はそうそう作れない気がしたのだ。 お互いの部屋を行き来するのに許可は必要ない。冬耶が室内にいる時はノックをするけれど、いつだって好きに入って構わないと言われている。彼の部屋にあるものも自由に使って怒られたこともない。けれど、今はその部屋に足を踏み入れるだけで緊張で鼓動が速くなる。 天蓋から無数のお守りをぶら下げるベッドばかりに目が行きがちだが、冬耶の部屋は全体的に物が多い。服やアクセサリー、本や画材、おもちゃがそこかしこに並んでいる。散らかっているわけではないけれど、京介に言わせるとごちゃごちゃしていて頭が痛くなるインテリアらしい。 この中から小さなカードを発掘するのは相当難しいミッションな気がする。まずは大事なものを置いていそうなデスクに近づいてみた。 冬耶はパソコンにも詳しくて、以前遥と通話する時に使ったノート型のものだけでなく、机上に置く大きなデスクトップパソコンも所持していた。勉強する姿は見たことがないが、このパソコンに向かって作業している姿はよく見掛ける。 もしかしたらカードの中身はすでにこのパソコンに移されてしまっているかもしれない。それなら正直なところお手上げだ。生徒会の仕事で資料を作るのにいじることはあるが、文字入力をしたり画像を貼り付けたりする程度で知識があるわけではない。冬耶のパソコンを操作するなんて出来る気がしなかった。ロックだって掛かっているだろう。 机の上にも、文具を仕舞っている棚にも、やはりそれらしいカードは見当たらない。よくよく考えれば、葵が簡単に触れられる場所に置いておくわけがない気がしてきた。冬耶が映像を見てどう思ったにせよ、人目に触れさせるようなことはしないはずだ。 となると気になるのは冬耶の部屋の中で唯一鍵の掛かる引き出し。そこに手を掛けた瞬間、背後で扉の開く音がする。 「あれ、こっちにいたんだ」 やましいことをしていた自覚は十分にある。だから冬耶に声を掛けられ、葵は大袈裟なぐらい体を跳ねさせてしまった。 「どうしたの?何か探し物?」 やはり冬耶は葵が断りもなく部屋に入っても全く気にする素振りはない。でもあらかじめ適当な言い訳を考えておかなかった葵は、答えに困ってしまう。 「ごめんなさい、勝手に入って」 「ん?別にいいよ?ここもあーちゃんの部屋みたいなもんだし」 冬耶の態度が葵にますます罪悪感を与える。 本当なら下手に隠し立てはせず、若葉との会話を打ち明けるべきなのだと思う。でも若葉のこととなると冬耶はいつもの冷静さが失われる。葵が名前を口にするのも嫌がった。関わらないようにという言いつけを破ったと分かれば、また冬耶を怒らせてしまうかもしれない。普段とびきり優しい分、冬耶に怒られるのは何より苦手だった。

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