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act.9極彩カメリア<45>

* * * * * * 生徒会の手伝いを始めることを波琉から話した相手は小太郎だけ。だが実際に放課後活動に参加し始めて四日目ともなると粗方の生徒には知れ渡っているのだろうと肌で感じる。おそらくは会議に出席した体育祭の実行委員あたりから噂が流れたのだと思う。 元々同級生と会話ぐらいはするが、特別親しいと呼べる相手は多くない。学外にいる趣味仲間とつるむほうが楽しいと思えてしまうから、彼らと交流することに熱心になれないのだ。 役員になることを望んだのだって、この学園のためだなんて立派な志があったわけではない。実家に戻されないためにはなんとしてもこの生活を維持しなければならなかった。だから少しでも金が浮く選択をせざるをえなかっただけ。 今までは終礼のチャイムが鳴るとともにバイト先のカラオケ店まで自転車を飛ばしていたが、今週はずっと生徒会室のある特別棟に通い詰めている。体育祭が終わるまでの働きぶりを見て、選挙の開催時期を検討すると忍は言っていた。バイトのシフトを減らすのは経済的に厳しいが、今はその言葉を信じて生徒会を優先するしかない。 校舎と特別棟の中間にある中庭に差し掛かった時、背後からパタパタと軽い足音が聞こえ、そしてトンと肩が叩かれる。 「百井くん、一緒に行こっ」 顔を覗かせたのは最近毎日放課後を共に過ごしている上級生、葵だった。あともう少しで特別棟に着くというのに、わざわざ走って追いかけてきたらしい。葵の後ろにはつまらなそうな顔をしている爽がいる。彼らはいつも一緒に生徒会室に現れるから、待ち合わせでもしているのかもしれない。 この短い距離の移動ぐらいそれぞれで来ればいいのにと思わないでもないが、たった数日過ごしただけでも葵がどこか目を離せない雰囲気を纏っているのは感じていた。それに爽はこうして葵が波琉に話しかけるだけでも面白くなさそうにするぐらい、惚れ込んでいるようだ。大方、爽が葵を迎えに行っているのだろう。 「今日の見回りは百井くんに付き添ってもらおうと思ってるんだ。よろしくね」 「あぁ、実行委員が作ったもののチェックでしたっけ?」 波琉はまだギリギリ170に満たない身長だが、葵は10センチ以上小さく感じる。同級生にも葵と似たり寄ったりな身長の者はいるが、体格も華奢だから余計に小柄に思えるのだろう。隣に並んできた葵に相槌を返しながら、頭の中では全く別のことを考える。 「そうそう、入場アーチとか得点パネルが規定のサイズ通りに仕上がってるかを確認するの。前に大きく作りすぎて体育祭中に落っこちちゃったことがあるらしくて、一応生徒会でも見ておく流れになったんだって」 波琉の視線の意図には気が付かず、葵は丁寧に仕事の説明をしてくれる。

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