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act.9極彩カメリア<51>
「葵ちゃんはどうしてる?」
「瀬戸に認めてもらえるようにって頑張ってますけど、それがまた可哀想に思えて」
「俺になんとかしろって?」
奈央が言いにくそうにすることを汲み取ってやれば、彼は難しい顔をして目を逸らした。
瀬戸が遥に抱く思いはもちろん理解している。卒業する時にも、いやその前にも瀬戸は何度も想いを告げてきたが、その度にはっきりと断ってきた。瀬戸のことを後輩以上の存在として見ることは無いとも言っている。
葵を生徒会に招いた時あからさまに嫉妬を見せた彼に対し、このままでは生徒会役員として残すことは出来ないとも宣言した。態度の改まらない瀬戸を見限り、新たに名乗りをあげた忍を会長として推すことにした時も彼とは一悶着あったことを思い出す。
「諦め悪いんだよなぁ、あいつ」
こっぴどく振り続けているというのに、むしろその都度熱を増して迫ってくる。
「ここを卒業して大学にでも行けば世界が広がってくれると思うんだけど」
「そう、ですかね?」
奈央は遥の読みが甘いと言いたげにこちらに視線を戻してきた。共に生徒会の活動をしていた奈央には、瀬戸がどれほど遥に心酔しているかは心得ているらしい。
「あの、それで話って」
不毛な片思いを続ける同級生の話をこれ以上続けても意味がないと思ったのだろう。奈央は改めて本題に入るよう促してくる。遥だって前置きの時間は十分とったと感じていた。ただこれから話すのは遥でもさすがに躊躇いを感じる話題だ。奈央にとって信頼のおける友人たちを疑っていると言っているようなものだから。
遥は慎重に言葉を選びつつ、昨日宮岡から聞いた話をかい摘んで告げれば、案の定奈央は友人たちの中に犯人は居ないと言い切ってきた。その気持ちは分かる。遥だってそう思いたい。
「じゃあ葵ちゃんが嘘ついてるってことになるけど」
「いえ、そういうわけじゃ……でもそんなことするなんて信じられなくて」
「あの三人は葵ちゃんに何にもしてない?今回の件に限らず、全く何も?」
確認すると、奈央は気まずそうに俯いた。遥の読み通り、心当たりはあるようだ。
やはりこの話を冬耶に告げずにいたのは正解だった。彼なら葵を生徒会に預けた己の選択を大いに悔やむだろうし、役員を辞めさせるとか、学校に通わせないとか、極端な方向に突っ走りかねない。普段は葵のためになることを最優先で考えられるのだが、この手の話になると冷静さを失ってしまうのだ。
「一応聞いておくけど、奈央は何にもしてないよな?」
「当たり前です」
手は繋いだことがあると正直に付け加えてきたあたり、彼は本当にこちらの許容するラインを超えてはいないのだと分かる。
「犯人が見つかるまで、葵ちゃんと一緒に寝てやって。元々冬耶が頼んでたことなんだろ?」
「え、でもそれは新しい部屋での生活に慣れるまでって話で」
「次は悪戯で済まないかもしれない。それは絶対に防ぎたいから」
奈央は友人を疑うことには消極的だったが、一ノ瀬の事件の二の舞になることは避けたいと告げてようやく首を縦に振ってくれた。
「葵くんに断られるかもしれませんよ」
「別に葵ちゃんのために添い寝するって名目じゃなくていい。奈央が一人で寝られないってことにすれば、葵ちゃんは喜んで一緒に寝てくれるよ」
意外と意地っ張りな葵の性格はよく分かっている。でも奈央が相談すれば迷うことなく同じベッドに潜り込んでくれることだって簡単にイメージ出来た。葵の安全と天秤にかければ自分以外に適任がいないことは理解出来ているようだが、奈央はあまり気乗りしなそうな顔をするばかりだった。
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