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act.9極彩カメリア<66>

「後輩ってもしかして生徒会の新入り?」 タクシーを捕まえやすい大通りまでの道すがら、京介は新しいバイト候補の正体を探った。最近葵から聞いた後輩の特徴と、幸樹が挙げたものが一致していることが気になったのだ。 「そうそう。年上相手の立ち回りは慣れてそうやし、ハマるかもなぁって」 適当に見えて幸樹のこうした直感が外れることはほとんどない。ただ幸樹が付き合いの浅い人間をテリトリーに引き込むような真似をすることが意外だった。 大通りに出るとすぐに空車のタクシーを捕まえることが出来た。後部座席に滑り込むなり幸樹が運転手に告げた行き先は学園寮の住所ではなく、最寄り駅の名だった。仕切り直そうと言われて断る理由もない。 「そんなに気に入ったの?」 「ん?あぁ、百井?気に入ったちゅうーか、うーん」 初めから近い距離で会話することの出来た京介のように、単に馬が合ったのかと思いきやどうやらそういうわけでもないらしい。幸樹は困ったような笑みを浮かべて短い金髪を掻き上げる。 「百井が生徒会来たのは金が目的やから」 「あー、奨学生なんだっけ?葵が言ってたな。で、その問題を解決してやりたくなったってこと?」 尋ねつつも、親切心からの行動ではないことは察していた。幸樹が優しいことは知っている。でも知り合ったばかりの相手に発揮されるとは思えない。現にそこまでの好意を抱くに至っていない様子は見て取れる。 「これ以上揉め事も守るもんも増やしたくないのよ」 相当な時間をかけた幸樹が選んだ言葉は京介の疑念を晴らすほど直接的なものではなかった。でも今の生徒会を取り巻く環境を考えれば、言いたいことが全く理解できないわけでもない。 「つまり、資金源を生徒会以外に見つけさせて百井を追い出してぇのか」 「追い出すっちゅーとなんか人聞き悪いな。まぁ俺のエゴには変わりないんやけど」 そう言って幸樹は窓ガラスに身を凭れかけ、外の景色を興味なさげに眺め始めた。 波琉が生徒会役員を目指すと表明したことで、聖や爽が焦っていることはたまに食事時に顔を合わせる程度の京介でも感じている。葵もそれが気掛かりのような素振りは見せていた。 馨や若葉といった共通の敵が出来たことでまとまりかけていた生徒会のバランスが崩れることを幸樹は危惧しているのだろう。それに波琉は当然のことながら葵を取り巻く環境を何も知らないはず。事情を知らない存在が一人紛れ込むことも、幸樹からすれば厄介ではあるのだろう。 守るものを増やしたくない。それは全てを守る覚悟を決めた幸樹だからこそ漏れた弱音に思えた。

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