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act.9極彩カメリア<71>

「まぁ葵先輩の好感度上げようとはしてるみたいだけど?」 小太郎の手から携帯を取り上げた聖は直近二人が交わしたやりとりを見せてきた。そこには小太郎がオリエン中に葵宛の土産を買ったことが記されている。それをどこかのタイミングで渡したいとアピールしていた。 「それは、その、二人と引き合わせてくれたお礼というか……」 「じゃあ俺が代わりに渡してあげようか?」 下心はないと主張する小太郎に意地の悪い提案をしてやると、彼は自分の手で渡したいと即答してきた。だがその理由は自分の口で礼を伝え、直接渡したいからだという。おまけに二人も一緒に居て構わないとまで言ってのけた。その表情を見ても、やましい気持ちはないのだと思い込んでいるのだろう。 爽たちへの隠し事がなくなってすっきりした様子の小太郎はさらに自分からこんな提案もしてきた。 「そういや放課後っていっつも藤沢さんのこと迎えに行ってるんだよな。それ、俺も着いていっていい?わざわざ時間作ってもらうのも悪いし、一緒なら二人とも心配しないだろ?」 誰にとってもベストな案だと言いたげな小太郎を見ると、彼が葵に恋したなんて予感がまるっきり的外れなような気がしてしまう。聖も爽と同じ感想を抱いたのか、小太郎をからかって遊ぶ気は失せた顔をしていた。 「葵先輩の吸引力、エグいなマジで」 予鈴が鳴ったことを受けて教室に戻る道すがら、聖がそんなことをぼやいてきた。矛先を小太郎ではなく葵に向けたくなる聖の気持ちも分からないではない。自分たちだってほんの一瞬で恋に落ちた分際だが、一体どれだけライバルを増やしたら気が済むのだと嘆きたくもなる。 「百井にも釘刺しとく?昨日二人で行動してたし」 「ダメだっつっても言うこと聞くかね?」 「まぁ、それは確かに」 今のところ波琉は葵に対しておかしな目を向けてはいないけれど、不安ではある。でも聖が言うように、一人で生徒会に乗り込んでくる度胸がある波琉が他人の指図を受けるとも思えない。 「なぁ、百井って付き合ってるやつとかいんの?」 「へ?モモちゃん?なんで?」 前を歩く小太郎のポロシャツを引っ張って尋ねると、こちらの会話の流れを全く理解していない反応が返ってくる。どうやら放課後土産を渡しに行く旨を伝えるメッセージを熱心に打っていたようだ。 「いいから。いんの?」 「んー、今いるって話は聞いてないけど。気になるなら直接聞いてみたら?」 波琉とはまだ業務的な会話しかしていない現状を知らないから小太郎は気安くそんな提案が出来るのだろう。最近聖は生徒会には満足に顔を出せていないし、必然的に二人で雑用をこなす場面が多くあるけれど、気まずい時間が流れている。 この関係値でいきなり色恋の話を切り出せば、波琉は相当警戒するに違いない。小太郎は自分の友人同士が親しくなることを望んでいるだろうが、生徒会役員の座を奪い合うライバルとして馴れ合うつもりはなかった。

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