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act.9極彩カメリア<81>
「俺の好きな子は素直だから全然似てないよ。二人もいい加減、素直になってより戻せば?」
葵にも意地っ張りな側面があることはこの際伏せておき、巴が一番刺されたくないであろう点を突いて逆襲してみせる。すると巴は呆気に取られた顔つきになった。
「あぁ、父さんは口下手なだけで分かりやすいかな。寝言で母さんの名前呼ぶし、いつ帰ってきてもいいように空き部屋用意してるし?」
「帰んないわよ」
こうしたからかいには滅法弱い巴は、むくれながら否定するのが精一杯のようだ。譲二がもう一歩強気に踏み込めれば、そして巴がもう少し天邪鬼でなければ、簡単に元通りになると思うのだけれど。
「はぐらかさないで、ハルの話を聞かせなさい。じゃないと援助しない」
「大人げないなぁ」
「なんとでも言いなさい。親をからかった罰」
あちらも的確に遥の弱みを握ってやり返してきた。さすがに本気ではないだろうが、巴が完全に拗ねてしまう前に適当に乗ってやらないと面倒なことにはなりそうだ。
「じゃあ質問に一つ答える。それでどう?」
「たった一つだけ?」
ケチだと言いたげな巴に頷きを返せば、彼女は頬杖をついてしばらく思案したあと、こう尋ねてきた。
「ハルはその子のどんなところを好きになったの?」
今度は遥が悩む番だ。葵の好きなところを挙げるのが難しいわけではない。簡潔にまとめるのが困難なのだ。
「ほら、早く答えて?そろそろ戻らないといけないんだから」
ワークスペースから共用部のこちらに顔を出してきた部下を見つけた巴が悩み続ける遥を急かしてくる。
「俺に目標を与えてくれたところ、かな」
これが完璧な答えとは思わない。けれど、きっかけを辿ればそこに行き着く。葵から初めて貰った手紙が全ての始まり。一人で過ごす時間が退屈なものではなく、意味のあるものになったのも葵のおかげだ。
「随分抽象的ね。まぁ、いいわ。また今度じっくり聞かせて」
ひとまずは巴の及第点を獲得出来たようだ。まるで小さな子供を相手にするみたいに遥の頬をひと撫でしながら立ち上がった巴は、入学金の振込先を教えるよう言い残し、颯爽と立ち去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、遥は言いつけ通り彼女宛に入学手続きの資料をすぐに送付した。けれど、期日まで対応は待って欲しいとも伝える。まだ自分の中で結論は出ていなかった。
秋に日本に戻るか。それともフランスで進学をするか。
巴以外は遥に日本での大学入学が選択肢にある事実を知らない。冬耶や譲二ですら、だ。当然葵は夢にも思っていないだろう。ぬか喜びをさせたくなくてひた隠しにしていたし、それが葵のためには正しいことだと思っていた。
けれど巴とのやりとりを振り返ると、それすらも独りよがりなものだと思えてくる。あれこれ理由を付けず、葵の傍に居るべきか。
今回の帰国で撮った葵との写真を振り返りながら、遥は自問自答を繰り返すのだった。
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