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act.9極彩カメリア<83>

「小太郎くんにお土産買う機会、あるかな。修学旅行は秋だからちょっと先だし。生徒会の合宿のほうが早いか」 頼み事をしたのは葵のほうだというのに、小太郎はわざわざお菓子を買ってきてくれた。それにオリエン出発前には朝食を食べていない葵を心配して、自分が食べる用に持ってきたクッキーも分けてくれたことを思い出す。このままではしてもらってばかりになってしまう。 「先輩、俺には?竹内にしかあげないんすか?」 この先の行事を思い浮かべて機会を作ろうとする葵に対し、爽は拗ねた声を出してくる。遠出する機会があれば、もちろん爽にだって買ってくるつもりだ。それに合宿の話を持ち出したのは、小太郎の好みの土産を選ぶための相談をする意味合いもあった。 「爽くんとは一緒に合宿行けるって信じてるから」 同じ役員として向かうのなら、土産を買う相手にはなりえない。そう答えれば、葵の教室に来た時からどこか不満そうな顔つきだった爽の機嫌が一気に良くなったのが分かる。 「なんなら、来年の俺らの修学旅行も一緒でいいっすよ」 「……ん?それ、僕がもう一回二年生するってこと?」 いつもこうした我儘を口にするのは聖で、爽はそれを諌めてくれる傾向にあるのに。冗談とは分かっていても、珍しい物言いが気掛かりで思わず足を止める。生徒会室のある特別棟まではあと少し。でも爽とこうして二人でゆっくり話せる機会は今しかない。 「だって、葵先輩と一緒に過ごせるイベント、少なすぎる。オリエン中も先輩のことばっか考えてた」 爽の表情を見ると、さっきの発言は単なる冗談ではなかったのだと思えてくる。 最近では慣れない会長代理の役目に翻弄される葵をしっかり支えてくれる頼もしい後輩の感が強かっただけに、急に甘えたがりの面を見せられると“可愛い”なんて感情が湧き上がってくる。慰める意も込めて、自分よりも背の高い爽の頭に手を伸ばすと、彼も触れられやすいように身を屈めてきた。 「俺たちだけが葵先輩の後輩だったのに」 葵に髪を撫でられながら、爽はまた一つ、本音を口にした。つまりは小太郎と仲良くしているのが気になって仕方なかったのだろう。もしかしたら生徒会でこれから合流する波琉に対しても、似たような感情を抱いているのかもしれない。 「“初めての後輩”は二人だけだよ」 入学式で出会ってからずっと特別な存在だと伝えれば、力んでいた口元が緩んでくれる。 「確かに。俺の“初めての先輩”も葵先輩です」 「それはこれからも変わらないでしょ?」 「はい、一番可愛いのも、好きなのも、愛しいのもね」 うまく話がまとまったと思いきや、壮絶なおまけが付けられてしまった。反応に困り、思わず顔を伏せると、爽はすかさず“先輩は?”なんて確かめたがってくる。 「竹内とか百井よりも、俺のほうが可愛い?」 聖とばかり張り合っていた印象が強かったのに、彼の今の敵はやはり小太郎や波琉らしい。鋭い印象を与える目を薄めて顔を覗き込んでくる爽は、楽しげだけれど答え方によってはまた落ち込んでしまいそうな危うさがあった。

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