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act.9極彩カメリア<85>
* * * * * *
「上野先輩もどうぞ」
生徒会の活動を始める前に葵と爽が人数分の紅茶やコーヒーを淹れてくれるのはすっかり日常になった。今日はさらに葵からお菓子も配られる。オリエンの土産として渡されたものらしい。
「藤沢ちゃんが貰ったもんやろ。ええの?」
「いっぱい入ってたのでお裾分けです」
「ほな、オススメちょうだい」
幸樹が選んでしまうとこの時間は一瞬で終わってしまう。だからそう告げて葵に悩ませてみた。チョコレートの詰まった箱を見下ろした葵は今この瞬間、幸樹の好みだけを考えてくれている。その事実に堪らない充足感を得られる。
さりげなく腰に手を回し、開いた己の脚の間に招き入れても、悩むのに夢中ですんなりと捕えられてくれる。
「キャラメルか、カフェラテでどうですか?どっちも、でもアリです」
一つには絞り切れなかったらしい。葵は黄色とゴールドの包みを手の平に乗せて差し出してきた。戯れたかっただけでチョコレートが目的ではなかったはずなのに、葵のセレクトに不覚にも頬が緩んでしまう。他の味に比べ、苦味のあるものを選んでくれるあたり、幸樹の好みを把握してくれていると自惚れたくなるからだ。
「じゃあカフェラテがええな」
そう言ってこれでもかというぐらい大きく口を開くと、葵は驚いた顔をしつつも素直に包みを開いてチョコレートの粒を指で摘んだ。チョコレートと一緒にその小さな指も食べてしまおうか。そうしたらさすがに恥ずかしがってくれるだろう。
そんな邪な思いは肝心の葵本人には伝わっていないけれど、周囲からは突き刺さるような冷めた視線を浴びせられる。新参者の波琉まで呆れた目を向けてくるが、そこにはすぐ隣に並ぶ爽のような嫉妬の色は見えない。
いちゃついていた葵と爽の二人を迎えに行かせた時も、波琉はただ面倒そうにするだけで、そこに特別な感情はないように思えた。幸樹にとっては都合のいい状況だ。
忍や櫻は波琉のことをそれなりに気に入っているらしい。二人とも体育祭の練習に掛かり切りで一緒に活動する機会はほとんどないけれど、役員を目指す目的が単純明快だったところが好印象だったようだ。
既存の役員に近づきたくて志願する生徒が多い中で、波琉のような存在は貴重で、歓迎すべき。その考え自体に異を唱えたいわけではない。
ただ、今の生徒会は葵を守るための強固な鳥籠でなくてはならない。様々な問題が未解決の状態で、何も知らない波琉が仲間として混ざるのはリスクでしかないのだ。だから彼が何かを悟る前に、そして生徒会入りを目指す理由を他に作る前に離脱させたい。もちろん、彼の目的を達成する手段を用意してやったうえで。
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