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2、危機一髪
ガツンッ
地面に叩きつけられるような衝撃に頭が動転する。
それはキラキラと目の前にお星様が舞うような、容赦の無い衝撃。
「っったぁあ!」
「…そこで何をしている。」
頭押さえていると、凍えるような冷たい声が降ってきた。
……目を開けたくない。
これはもしかしなくても絶体絶命という奴ではないか。
薙ぎ倒したのは、恐らくこの声の主の魔法だ。
そして声の主はほぼ間違いなく宰相様である。
…何度か学校で公演を行って下さった事があるし、講義室で何故か人気の無い最前列を毎回陣取っていた僕が、この特徴的な、”凍えるような”という形容詞が最も相応しい声を忘れる訳が無い。
ただ今の声はその記憶の中でもトップレベルに怖いけど。
何故こんなに一瞬でばれてしまったのか。
まだ僕とこの人の距離は黙視出来るかどうかギリギリなほど開いていた筈なのに。
そんな事を考えていると、再び激痛が体を駆け抜けた。
「っっいぎゃあああああ!!」
思わず目を見開くと、やはりファサイル様で、しかもその御足は僕の股間にグリグリと埋め込まれていた。
「質問に答えないからでしょう。離して欲しければ口上を伸べなさい。___セリク。」
痛い痛い痛い痛い痛い………へ?
「なんで僕の名前……」
封印魔法を掛けられる時に対面はしたけど、まさかあの一瞬で顔まで覚えられているとは思わなかった。
「質問に質問を返すとは良い度胸ですね。それは私への挑戦と受け取って良いんですね?」
「ひぃいいっ」
サラリと肩から落ちる白銀の髪、ヤクのミルクのように真っ白な肌、ルビーの煌めく瞳、全てが精巧に作られた陶器のように完璧で清廉な宰相様が口角を上げたその様は_______何故か真っ黒な闇夜を連想させた。
ブルリ、と鳥肌がたつ。
瞬間、一層強くなった股間への痛みに悲鳴を上げる。
「言いますっ言いますから!!!だから足退けて!!」
半ば叫ぶように懇願すると、少しだけ威力が弱まった。
「えっと、あの……」
何からどう説明説明すれば良いんだ……。
というか正直に言ったら殺されるんじゃ……
再び言い淀んだ僕にスゥッっと目を細めるファイサル様が見えた。
ヤバい……!!!
バタバタバタ ッ
「ファサイル様!騒音が聞こえたのですが何かあったのですか??」
突然、廊下の向こうから数人の足音と声が響き渡った。
トパーズの瞳がそちらに向く。
「………鼠が前を横切りましてつい条件反射で攻撃してしまっただけです。騒がせてしまいすみません。持ち場を戻って下さい。」
「へ?は、そうですか!最近増えてこちらも困ってるんですよね。害獸駆除お疲れ様でございますっ!!」
この距離では見えないが、ピシッと敬礼でもしてそうな勢いだ。
ドタバタと足音がまた遠ざかっていく。
「……一旦部屋に入りましょうか。此処では悪目立ちが過ぎます。」
スィッと話している間もしっかりと乗せられていら足が退けられる。
どうして兵士に突き出さなかったのか、僕を庇って下さったのか、疑問は尽きないが足を退けられた事に一先ず安心し、ヨロヨロとセリクは起き上がった。
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