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9、前夜
禁忌を犯してしまった事には変わりは無い。
しかも事件を起こしてしまった事で、彼の才能と実力の程が露見してしまった。
今まではどんなに試験で良い点数を取ろうとも、技能試験が優秀であろうとも、指定教育の域を越える事は無かったが、今回は完全に規格外の魔法技術を披露したのだ。
当然彼を悪用しようと目論む輩が出てくることが予想されるし、事実彼が裁判にかけられる迄の一週間で、王宮の地下牢へ侵入しようとした数名を捕らえている。
いずれも証拠不充分として無罪放免されてしまったが。
どうすれば彼が悪用される事を防げるか。
そして彼自身が望む彼自身が望む 所へ導けるか。
考えた末に出た結論は、魔力を剥奪した上で自分が彼の身柄を捕獲する事だった。
魔力が無いとなれば少なくとも彼の利用価値は半減するし、身の危険も減る。
それに彼に今一番必要なのは魔力ではなく、行動を起こす前にそれが本当に正しいのか顧みる判断力と、危険を察知する危機探知能力だ。
高すぎる魔法能力はそれを培う上では寧ろ邪魔になる。
しかし会議で激しく反対され、彼を王都へ留める事は叶わなかった。
仕方なく監視を置かせ様子見をしていたのだが、その報告書だけでも彼の危険への注意力の無さ、人を簡単に信用してしまう浅はかさはひしひしと伝わってきた。
道端にわざとらしく点々と置かれているキャンディを辿って敵の懐へ飛び込もうとした事五回、老婆に変装した敵に荷物を家まで運ぶのを手伝ってくれないかと頼まれ運ぼうとした回数七回、如何にもな格好をした敵に簡単で時給の良いアルバイトがあるから事務所に来ないかと勧誘されついていこうとした回数六回等々、数えきれないほどの罠に全て自ら引っ掛かりに行ったのだ。
毎回さりげなく止めに行くこっちの身にもなってくれ!と何度監視役に文句を垂れられたことか。
そんなに騙され易いならこっちも騙してやれ!と私の宮殿に盗みに入るよう仕向けたのが丁度一週間前。
あの異臭を放つ薬品の件は知らないが、関所の目を掻い潜って王都に入れるよう画策したのも私の宮殿の見取り図を見せたのも、侵入しやすい日時を教えたのも全て私の使用人によるものである。本人は全く気付いていないようだが……。
そうでなければ誰があんなあんぽんたんを宮殿に入らせるものか。。
★
はぁ…と溜め息をつき、彼の寝顔を再び見遣る。
彼を守ると決めたはものの、ここまで愚かだとは思っていなかったし、こんなに大変だとも予想していなかった。
ただでさえ追放した罪人を匿っているだなんて事が明らかになってしまえば大スキャンダルになるのは目に見えているし、それによって皇帝陛下にご迷惑をおかけする可能性もあるのだ。
一人の天才を護る利益に対し、リスクが大きすぎる。
普段の自分なら、絶対にこんな懸けに出るようなマネはしない。
……でも、心より先に体が動いてしまった。
理性的ではないし、こんな自分はらしくない。
同じような境遇の少年に自分を重ねてしまっているのではないか。
何度も自問自答したが、やはり護らなければという気持ちが何処からともなく沸きだして来て、どうしようもなかった。
結局陛下の「好きにしろ」というお言葉に甘んじた結果がコレなのだが。
ジトリと彼の寝顔を睨んでもみるが、不思議と後悔は湧かない。
彼が死ではなく、奴隷になる道を選んだ瞬間から、己の覚悟は決まったのだ。
共倒れにはならないよう、体調が戻り次第ビシバシしごいてやる。
貴方も覚悟して置きなさい、ラヒーム。
熱が下がってきた事を感じ、額に当てていた手を離してラヒームの頭を撫で、ベッドから出る。
やらなければならない事は、沢山有るのです。
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