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12、初仕事
それから僕はサミーウに案内してもらって、洗顔や朝の礼拝を済ませた。
ここがお前の仕事部屋です、と連れてこられた部屋は机と椅子、それから小さな本棚が置かれている小部屋だった。
「さて、ラヒーム。体調が優れているようなら仕事を命じますが、やれますか?」
椅子に足を組んで座ったファサイル様が聞く。
「もう元気です。仕事、やれます!」
キュルキュルキュル……
声と共に盛大にお腹の音がなった。
「………。」
恥ずかしい……。
昨夜何も食べずに寝ちゃったからだ。
でもまだ8時だし、朝食は2時間も先だ。
「はあっ、何か口に入れてからの方が良さそうですね。」
サミーウ、とファサイルが言うと駆け足でサミーウは何処かへ消えた。
そして1分経たない内に芳ばしい匂いを放つパンを二つ抱えて戻ってきた。
スィッとラズベリージャムを乗っけたパンを差し出され、ファサイル様の顔を伺うと、食べなさいと言われたので有り難く頂く。
「おいひぃでふ、ふぁはひふはは!」
「食べながら喋らない。私はいいですからもう1つはサミーウがお食べなさい。」
子供ですか、と呆れられるが本当に美味しいのだ。寮の食事も豪華だったけれど、大勢の食事を作る為スープ以外はいつも冷めきっていた。焼きたててのパンなんて、6年ぶりだ。
「食べながらで良いので聞きなさい。お前の仕事はコレを暗記する事です。」
徐に本棚から取りだし、ドサリとテーブルに積まれたそれは……
「ほうひふへんほ!?」
思わず喋ってしまい、パンくずが書物の上に飛ぶ。
「…次食べ物口に含ませながら喋ったら朝食抜きにしますよ。」
それは嫌だ!
一日二食なのにその一食を抜かれるなんて死んでしまう!
慌てて口の中に入っていたパンを飲み込む。
「ごめんなさい!でもなんで法律全書なんか暗記するんですか?」
テーブルの上に山積みにされた分厚い書物達は僕の苦手な法学の専門書だ。
「お前の6年間の成績を見れば法律学の素養が足りないのは明らかでしょう?暗記は言い過ぎましたけど、要点押さえるくらいはしなさい。」
「なんで成績知ってるんですか!?」
個人情報なのに!
「大宰相の特権です。」
しらっと言うけどどんな特権だよそれ……。
「でも赤点って訳じゃ無いですし平均点くらいですよ?」
確かに他の教科に比べたら悪いけどさ。
誰だって苦手教科くらいあるよね。
「平均点など何の意味があるんです?四割しか取れてないという事は半分以上理解してないという事じゃないですか。」
「そんな事言われたって、医術師になるのにそんなの必要無いですし……。」
そんなの覚える位なら薬草の一つでも覚えたほうが有意義だと思う。
不満満載なラヒームの顔を見てもファサイルは動じない。
「必要ですよ。国家資格の試験でも出ますし、薬物の扱いに法律が関わることもあるでしょう?」
「医療関連の法律は全部頭に入ってるから大丈夫です。」
法律全書丸暗記だなんて法官官僚だってしないのに、何で僕がそこまで覚えなければならないのか。
大体それの何処が奴隷の仕事なんだ。
「私が覚えなさいというのだから覚えなさい。仕事が気に食わないと言うなら手話は教えません。」
「そんなの横暴です!」
「何とでも言いなさい。お前ならそれくらい簡単でしょう?それとも何です、自信が無いのですか?」
「そ、それくらい出来ます!」
嘲るように言われればつい言い返してしまう。
ハッとした時にはもう遅い。
ファサイル様はニッコリと微笑む。
「では私は私室で仕事がありますので。付箋が貼って有るところまで紙に複写して覚えて下さい。」
それだけ言い残すと、用は終わったとばかりにサミーウを連れて部屋を出ていった。
「うう…嵌められた。」
一人取り残された僕はガックリと肩を落とした。
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