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14、怒り

バタンッ 「ファサイル様!」 「ノックくらいしてから入りなさい。お前はそんなところから躾られないと出来ないんですか?ラヒーム。」 顔も上げずに来訪者を当てたファサイルの手は忙しそうにペンを走らせている。 「そんな事よりっ、サミーウに文字を教えて良いですよね?」 「……サミーウが教えて欲しいと言ったんですか?」 無造作に前髪をかき上げながらファサイルが聞く。視線は紙に向いたままだ。 「えっ、違います、けど。」 それがどうかしたのか。 「なら許可出来ません。」 「っ、じゃあサミーウが教えて欲しいって言ったら許可くれるんですか?」 「そうですね。まあ有り得ませんが。」 「有り得ない……?」 どういう事? 「識字能力を身につけない、というのがサミーウを囲う時に私が提示した条件ですから。それを破るというなら私はサミーウを始末しなければなりません。」 は…? 「っそれは人としての権利を踏みにじる行為ですよね?宰相である貴方がそんな事して良いとでも思ってるんですか!?」 「人?サミーウは奴隷です。人権など元から存在しませんよ。」 何を馬鹿な事を言っているのか、と言わんばかりにファサイルがラヒームを睨んだ。 「んなっ!でも他の奴隷は読み書き出来るじゃんか!」 「それは所有者にとって必要だからでしょう?私はサミーウに対してそれは求めていないというだけの事です。」 「何でサミーウだけ……?」 「…サミーウの仕事に文字は不必要だからです。」 「じゃあ手話は「私と仕事上会話するのに必要だからです。」 必要。 不必要。 そんな事で、この人はサミーウから文字を、沢山の人と交わす会話の手段を取り上げているの? 「酷い……酷すぎるよ。」 「何とでも言いなさい。私は自分の利益にならない事はしませんし、させません。そうやってここまで登りつめたのですから。」 そう言い放ったファサイル様の表情は、言葉と同じくらい冷たくて、僕には決して相容れないモノだった。 「じゃあ、僕に生きる道を示してくれたことも、自分のベッドを貸してまで看病してくれたことも、仕事という名の勉強時間を与えてくれたことも、全部ファサイル様にとって必要だったからなの?必要じゃなかったら、人として最低限必要な事も取り上げられるの?」 「……そうですよ。話はそれだけですか?用が済んだのならさっさと出ていきなさい。仕事の邪魔です。」 肯定したファサイル様は、もう僕を見てさえいなかった。 「言われなくったって出ていってやる!見損なったよご主人様!!」 バタンッ、と開いた扉を直しもせずに飛び出して行ったラヒームを、扉の外に居たサミーウともう一人の青年は呆気にとられて見つめた。

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