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17、子羊

「ファサイル様!!」 「……何ですか、また。」 時計を見遣ると、さっきラヒームが出ていってから1時間ほど経っていた。 やっと謝りに来たのかと思って顔を上げれば、怒り顔のラヒームと目が合った。 ……バーティンは説得に失敗したようですね。 落胆した瞬間、思いがけず待望していた言葉が返って来た。 「さっきはすみませんでした!無礼な事たくさん言って!文字の件は納得したのでもう言いません!!」 「…顔と言葉が一致してないんですが。」 全然顔が納得してない。 「でも!」 「でも?」 「僕だけ楽な仕事なのは納得出来ません!」 「………はぁ?」 思わず心の声が漏れてしまった。 サミーウの次は仕事……一体何処まで我が儘を言えば気が済むのだ。 「それは勉強なんかしたくない、という事ですか?」 「そういう事じゃなくって、他の使用人の仕事に比べて僕だけファサイル様の何の役にも立っていないのが嫌なんです!」 与えられるだけの立場には甘んじたくない、と? 「はあっ。」 本当にこの子は変わってる。 せっかく珍しくこの私が譲歩していたというのに、自らそれを断るだなんて。 「では遠慮無く使って良いんですね?」 「はい!」 「何でもするんですね?」 「はい!」 ああ、子羊が自ら料理してくれと飛び込んでくる。 こんな美味しい状況、逃す馬鹿がいるでしょうか? 「ならこれからハマム(蒸し風呂)に行きますので湯編みを手伝いなさい。」 「はい!」 「書類を片付けるから少々お待ちなさい。」 「はい!」 最初から勉強だけさせるつもりは無かった。 使えるものは全部使うのが私の主義ですし。 ただ、もう少し周りの環境に慣れるまで待とうと思っていたんですけど……自分から飛び込んで来たのですから、良いですよね? 一度は嫌われたのだから、もう何度嫌われようが憎まれようが痛くも痒くもない。 さて、お馬鹿で可愛い子羊をどうやって味付けしましょうか。 子羊はとんでもない狼を目覚ませた事に、まだ気づいていない。

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