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19、ハマム②*

「ひゃあっ!」 後ろから抱きつくように覆い被さってきたファサイル様。 両肩の上から伸びるその御手はスルスルと胸に下っていく。 「な、なにしてるんですかファサイル様!?」 「お前が動く気が無いようなので自ら来てやったのですよ。」 主人を動かすだなんて罪深いですね、などと宣うこの人は正気だろうか。 動揺している間にも長い腕は体を這い回る。 ボディーオイルを付けたのだろうか、ぬるぬるとした感触が伝わってきてくすぐったい。 「だ、だからって何で抱きつくんですか!意味分かりません!」 「お前が余りにも洗うのが下手だから指導して差し上げようかと。」 ほら、洗いにくいから座りなさい。 体を密着させたままそう命令されたせいで、吐息が耳を擽って思わず体の力が抜ける。 それを見計らったかのように抱えられたまま後ろに押され、意図せず僕はストンと台座に腰を落とした。 要はファサイル様の右膝と左膝の間に僕の腰が挟まったのだ。 まるで幼児が父に体を洗われる時の構図だ。 「や、恥ずかしいからっ、やめっ、、」 必死に逃れようともがくが、がっしりと左腕で抑えられていてびくともしない。 「洗いにくいでしょう?それにあんまり騒ぐと使用人が気づいて入って来ますよ。」 この格好を見られる。 絶対嫌だ。 暴れるのを止めて、幾分か声を落とす。 「大体何で大宰相様ともあろうお方がこんなこと……!」 普通は、いや絶対に貴族がケセジのマネなんかしない。 「…私の出自くらい噂で知っているでしょう?」 「え?あ、平民……ひゃっ!」 チクリと痛みが走り、慌てて自分の体を見下ろすと、あろうことかファサイル様が指で右胸の突起を挟んでいた。 「色は理想的な薄桃色ですが、もう少し大きい方が良いですね。まあ開発していけばそれなりにはなるので良しとしましょう。」 「………。」 ドン引きである。清廉潔白がウリじゃあなかったんですか宰相様。 「清廉潔白代表みたいな顔して性癖とことん拗らせてる残念男」 今更ながら昼間のバーティンさんの言葉が蘇ってきた。 もっとちゃんと聞いとけば良かった……。 そしたら対策練れたかもしれないのに。 引っ張られて痛いと思えば、スルリと手のひらで転がされてムズ痒い。 オイルのせいで無駄に滑りが良く、時折不意討ちのように首輪が嵌められたままの首を撫でられて、喉仏がヒクリと鳴る。 「ふ、あぁ、やめ、イヤッ……!」 「嫌?そうでしょうか?」 それまで触れられていなかった左の乳首をキュッと摘ままれて、イヤイヤと首を振る。 「ひぃっ……やぁ、やだから、ホントに!!」 「なら、何ですかコレは?」 スルリ、と右の突起を弄っていた手が下へ伸びる。 「ふぇ?」 ギュッと握られたそれを見て、サァッと身体中から血の気が引く音を聞いた気がした。

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