20 / 36
19、ハマム②*
「ひゃあっ!」
後ろから抱きつくように覆い被さってきたファサイル様。
両肩の上から伸びるその御手はスルスルと胸に下っていく。
「な、なにしてるんですかファサイル様!?」
「お前が動く気が無いようなので自ら来てやったのですよ。」
主人を動かすだなんて罪深いですね、などと宣うこの人は正気だろうか。
動揺している間にも長い腕は体を這い回る。
ボディーオイルを付けたのだろうか、ぬるぬるとした感触が伝わってきてくすぐったい。
「だ、だからって何で抱きつくんですか!意味分かりません!」
「お前が余りにも洗うのが下手だから指導して差し上げようかと。」
ほら、洗いにくいから座りなさい。
体を密着させたままそう命令されたせいで、吐息が耳を擽って思わず体の力が抜ける。
それを見計らったかのように抱えられたまま後ろに押され、意図せず僕はストンと台座に腰を落とした。
要はファサイル様の右膝と左膝の間に僕の腰が挟まったのだ。
まるで幼児が父に体を洗われる時の構図だ。
「や、恥ずかしいからっ、やめっ、、」
必死に逃れようともがくが、がっしりと左腕で抑えられていてびくともしない。
「洗いにくいでしょう?それにあんまり騒ぐと使用人が気づいて入って来ますよ。」
この格好を見られる。
絶対嫌だ。
暴れるのを止めて、幾分か声を落とす。
「大体何で大宰相様ともあろうお方がこんなこと……!」
普通は、いや絶対に貴族がケセジのマネなんかしない。
「…私の出自くらい噂で知っているでしょう?」
「え?あ、平民……ひゃっ!」
チクリと痛みが走り、慌てて自分の体を見下ろすと、あろうことかファサイル様が指で右胸の突起を挟んでいた。
「色は理想的な薄桃色ですが、もう少し大きい方が良いですね。まあ開発していけばそれなりにはなるので良しとしましょう。」
「………。」
ドン引きである。清廉潔白がウリじゃあなかったんですか宰相様。
「清廉潔白代表みたいな顔して性癖とことん拗らせてる残念男」
今更ながら昼間のバーティンさんの言葉が蘇ってきた。
もっとちゃんと聞いとけば良かった……。
そしたら対策練れたかもしれないのに。
引っ張られて痛いと思えば、スルリと手のひらで転がされてムズ痒い。
オイルのせいで無駄に滑りが良く、時折不意討ちのように首輪が嵌められたままの首を撫でられて、喉仏がヒクリと鳴る。
「ふ、あぁ、やめ、イヤッ……!」
「嫌?そうでしょうか?」
それまで触れられていなかった左の乳首をキュッと摘ままれて、イヤイヤと首を振る。
「ひぃっ……やぁ、やだから、ホントに!!」
「なら、何ですかコレは?」
スルリ、と右の突起を弄っていた手が下へ伸びる。
「ふぇ?」
ギュッと握られたそれを見て、サァッと身体中から血の気が引く音を聞いた気がした。
ともだちにシェアしよう!