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28、忙しい朝
翌朝。
重い瞼をこすりながら目を覚ました僕の目の前にいたのは、昨夜散々いたぶってくれた張本人、ファサイル様ではなかった。
「よお、起きたか?」
「ゎ、おはようございます。」
天蓋の隙間から顔を顔をひょっこり覗かせたバーティンさんに、驚きつつも返事をする。
朝っぱらからどうしたんだろう。
「宰相サマから伝言だ。午後から王宮の研究院で大医師の仕事手伝えとさ。」
王宮?
大医師……。
そっか、もう話取り付けてくれたんだ。
代償は大きかったけど、ちゃんと約束を守ってくれた。
それを知って少しほっとする。
「えっと……ファサイル様は?」
「もう御膳会議に行ってるよ。今日は州知事も来てるから忙しいんだと。」
「はぁ。」
御膳会議は火曜日と木曜日にある。
考えてみれば今日は木曜日だし、遅起きだったからもう会議は始まっているのだろう。
「お前もゆっくりしてる暇はねぇぞ。俺様が髪切ってやるんだから早く支度してこい。」
「……え?髪?」
何で朝から。普通入浴の時に一緒にするものばのに。しかもバーティンさんが?
「聞いてなかったか?研究院と言えども王宮に入るんだから、髪の色変えただけじゃ流石に気付かれるかもしれないだろ?眉唾モノではあるけど髪型変えた方が良いし、他にも細工するつもりだから。」
「あー、確かに。」
一応、というか確り自分は罪人で、都を追放された身なのだった。
でも実際魔力消耗しすぎて森に入ってからの記憶殆ど無いし、禁忌を犯したと言われて実感が湧かないのだ。
罪人だってことがつい頭の中から抜け落ちていたのも仕方がない。
「分かったならさっさと動け。俺の待つ時間が勿体ないねーだろうが 。」
「あ、はいっ!」
低い声で急かされて飛び起きる。
パタパタと世話しなく着替えやら朝の礼拝を済ませる。
喋り方怖いけど、なんだかんだ起きるまで待っててくれたんだから面倒見良いよね、バーティンさん。
「終わりました!」
「おーう、ほんじゃソコ座れ。」
ホレ、と寝室にある鏡台をさされ素直に座る。
ファサイル様のものなのに使っていいのだろうか、と一瞬頭によぎったがベッド使って寝ている時点で今更なので気にしない事にする。
……ていうか、ファサイル様何処で寝たんだろう。昨夜も結局僕は此処で寝ちゃったみたいだし。
まさか一緒に……?
いやいやナイナイ。奴隷と御主人様が一緒に寝るとか。
あれ、でも色小姓なら一緒に寝るのが普通なの
……?
「……あの、ファサイル様って此処で一緒に寝ていらっしゃったりとかありませんよね?」
恐る恐る鏡に映るバーティンさんに伺うと眉を盛大にしかめられた。
「はあ?これでもかって言うほど抱きついてた癖に何いってんだよ。」
「へ?」
抱きついてた?!
「いやまさかそんな事!確かに夢の中で巨大なアイスクリームの塔に抱きついてた記憶があるようなないような気がしますけど。」
「しっかり俺はこの目で見たぞ。…というか離れないから何とかしろって今朝お前のご主人サマに言われて引き剥がすの手伝ったからな?」
「…うっそだあ-、またまたご冗談を-!」
「本当だかんな?俺がウソついても一銭の得にもならねーだろーが。」
「……ウソって言って下さいお願いしますっ」
「だーかーらー、本当だっての!そんなに照れなくてもお前と宰相サマがアツアツの初夜迎えてた事くらい知ってんだからな?どうだったんだ?初めて男をナカに挿れた心地はよぉ?」
ニヤリと笑って鏡越しに俺を見つめるバーティンの言葉に、一瞬で顔がカチコチに硬直したのを感じた。
「…………はい?」
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