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29、告白

初夜? 男を味わう…? 「……僕まだ処女ですよね?」 確かにあんなことやこんなことをされたけど、抱かれてはいない……と思う。 最後の記憶が無いだけに怖いんだけど。 「あ?まさか抱かれてねぇのか?」 「いや、抱かれたというのはちょっと違うっていうか……その……。」 説明しようとして、自分が物凄く恥ずかしい事を暴露しようとしている事に気付き口をつぐむ。 それを素早く察したバーティンがワシャワシャと髪を鋤きながら話す。 「別に恥ずかしがらなくていい。俺も似たような事してたから気持ちは分からないでもないが、折角経験者が目の前に居んだ。遠慮なく言っちゃえ。」 「経験者って……。」 「ああ、宰相サマに拾われるまでは旅芸人の一座で花形やってたからな。まぁ接待とかでソウイウコトは一通り経験してんだよ。」 「はあ。」 花形。 なんだか凄く納得である。 召し使いの奴隷らしからぬ風流で優雅な出で立ち、かといって貴族とは程遠い粗暴な言葉使い。 旅一座の芸人と言われれば腑におちる。 でも接待って、、やっぱりそういうのあるんだ。 そう思うと少し心が痛むけど、確かにそんな経験豊富な人なんてなかなかいない。 恥ずかしいけど、相談するならこの人が打ってつけなのかもしれない。 「あの、、えっと、シたワケじゃなくって 、なんていうか……道具で練習?」 耳まで真っ赤になりながら告白する。 呆れられるかも、軽蔑されるかも、笑われるかも……そんな心配がどうしてもよぎる。 だが、バーティンの反応はそのどれとも違っていた。 「へ!?道具って、慣らしただけってことか?」 「えと……それでイッちゃって、意識なくして……っでも開発だって、今日はまだシないって、ファサイル様が……。」 ………。 どうしよう、消えてしまいたい。 やっぱり恥ずかしいすぎる。 「はあっ。」 大きな溜息にビクリと肩を震わせる。 恐る恐る鏡を見ると、そこには天を仰ぐバーティンさんがいた。 「……?」 「マジかよっ……!あのド鬼畜宰相が人の体をおもんばかって遠慮した!?しかも慣らしてイカせて自分は何も発散せず!?あり得ねぇ………!アイツまさかそこまで本気なのか?」 「……えと。」 「小僧、お前スゲェよ。」 「はいぃ?」 一人でうんうん頷かれても全く理解出来ない。 困惑の表情を浮かべるラヒームをまじまじと見て、バーティンはもう一度大きく息を吐いた。 「隠してもどうせどっかから漏れて知るだろうから言っとくけどな。アイツ…宰相サマは今まで何人も男を抱いている。」 ……でしょうね。 滅茶苦茶慣れてたし。 いくら僕が鈍感でも流石にそれくらいは察したから、別に何とも思わない。 「だが大事なのはここからだ。あの人は一度抱いた奴は二度と抱かねぇ。ただの性欲処理にしか男を使ってねぇんだ。……まあ何ヵ月に一回くらいしかそういう情事はなさらないから元々数は少ないが。で、だ。お前は開発と言われたんだよな?それは次があるってことだよな?しかも挿れもしないって大切に長く使うってことだよな?それって、アイツがお前に少なからず特別な感情を持ってるって事になるよな……?」 「ま、ま、、まさか……。」 モスグリーンの瞳に迫られドギマギしたのもあるが、それ以上に言葉の衝撃が大きい。 だって、色小姓って。 性奴隷って。 取り敢えずあの契約は全然色恋を仄めかすような内容ではなかった。 昨夜のコウイだって、僕の恥態を見ても興奮するような素振りはなく、こちらが消えてなくなりたいくらい始終冷静沈着だった。 あれのドコに、特別な感情があるというのだ。 思い返せば思い返すほど、やっぱり何かの間違いだという気持ちが強くなる。 「…勘違いですよ!気が変わったんじゃないですか?取っかえひっかえやるよりも一人を相手にする方が楽だって思われたんですよ。そうですよ、きっと!」 「そうか……?」 「そうです!愛なんて、そんなもの何も無い。ただ取り引きの報酬で、ギブ&テイクなだけで、あの人は何とも思っていないんです!!」 本当は、ちょっぴり期待している自分がいる。 バーティンさんの言葉にときめいた自分がいる。 ファサイル様の心がほんの一欠片でもいいからあの行為に入っていれば、それだけで救われる気がしている自分がいる。 ……でも、ダメだ。 人に期待なんてしてはいけない。 確信の無い愛に希望を持つなど、哀しいだけだ。 「俺は充分脈アリだと思うが……まあお前の気持ちもあるしな。やめたやめた、恋バナなんて男がするもんじゃねえな!ほら、髪どうするよ?天才ヘアアーティスト、バーティンさんのお任せで良いのかい?」 「旅芸人じゃなかったんですか?」 「両方だよ両方!リクエストがねぇならジャキジャキ切っちまうぞ!」 「丸坊主以外ならなんでも良いですよ!」 「おっ、言ったな?じゃあ好きにさせて貰うぜ?」 空気を敏感に察してそれ以上は言わずにノリノリで作業を再開するバーティンさんは、やはり優しい。 今はその優しさに甘えさせて貰って、この気持ちは忘れよう。

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