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30、変身

「わぁ……!」 「どうだ、カッコいいだろう?」 まだまだ見慣れていない黒目黒髪。 それだけでも鏡に映る自分に違和感しか感じられないのに、今は肩まであった髪の毛が耳に掛かるか掛からない程度までバッサリと切られ、前髪も目が完全に見えるまで短くなった。 もう完全に別人である。 こんなに短いは幼少以来ではないだろうか。 「短いの久しぶり過ぎてなんか恥ずかしいです。…変じゃ無いですか?」 「似合ってるぞ。なんてったって俺が切ってやったんだからな!逆に今までよくあんなダサい髪型にしてたな、て言いたくなるくれぇ前のは良くなかったぞ?」 「あー、最後に切ったの1年前だから……。」 「はあ?……もしかして髪の長さは魔力の量~♪てやつ信じて伸ばしてたのか?」 ならザクザク切って悪かった、と謝るバーティンさんに慌てて否定する。 「やっ、切るの面倒臭かっただけで!」 「あ?なら良いが。」 信心深い?貴族の方々は軒並み長髪だけど、どう考えたって迷信だし。 別に伸ばしていたワケでは無いが、自分で切るのは難しいわ寮の散髪屋はやたら高いわで、ギリギリまでも放って置いたらそうなっていたのだ。 大体毎年夏期休暇の始め頃になるとムサ苦しいのに我慢出来なくなって、渋々大金はたいて切って貰ってたんだよね-。 でもそこの散髪屋のポリシーなのか、どんなに頼んでも前髪はあんまり短くは切って貰えなくて、結局二学期始まる頃には結構伸びちゃってたんだよね。 そう思うと、僕の顔をちゃんと見た事ある生徒は殆ど居ないのかもしれない。 僕は平民出身という事で貴族グループと折り合いが悪かったというのに加えて、史上最年少で受かった為に同級生とは(いささ)か歳が離れ過ぎているという友達作りに於いてのハンディがあった。 考えてもみてほしい。 入学当時僕は10歳で周りは14歳から16歳。 大人にとって6年差なんてどうってことも無い年齢差なのかもしれないが、両手だけで数えられる程の歳の子供にとって、6歳は大きい。 鼻の下に髭がうっすら見られて、脛毛がズボンの袖からはみ出している思春期真っ只中の16歳男子は、つい最近まで女の子と一緒にに遊んでいた10歳のガキ(大きくなると女性との接触は禁じられる)から見れば立派なオトナなのである。 その上皆良いもの食べて育っているからか、僕が知っている村のお兄ちゃん達よりはるかにガタイが良い。 顔見知りなど何処にもいない魔法学校で、その状況。 ……友達を作れなかったのは不可抗力だと思う。 お陰様で青春をドップリ勉強に費やさせて頂きましたけれどもね。 ……黒歴史は置いといて、そんなワケだから、割と真面目に僕の顔が知られていない可能性が高いのだ。 これは不幸中の幸い……だよね? 「おい、いつまで座ってるつもりだよ。カットは終わったんだから飯食って直ぐに研究院に向かうぞ。」 「え?あ、はいっ!」 いっけない、考え事に集中しすぎて急いでるの忘れてた。 いつの間にかバーティンさんはカットに使った道具を片付け終わっていて、使用人用の食堂に向かおうとしていた。 慌てて僕も後を追う。 昨日初めて食べたけど、ここのご飯は絶品だ。 何でもファサイル様はご自分と同じ食事を使用人に振る舞っているそうな。 パンにメネメンに白チーズ、トマト、オレンジ濃いめのチャイ。 朝ごはん(カーバートゥ)が僕を呼んでいる。

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