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31、門
僕が今住んでる宮殿、つまり文官達の職場でファサイル様が統括している大宰相府は、王宮の外廷にある。
そしてこれから向かう研究院は、なんと内廷(王宮本部)にある。
最先端の医療魔術研究が為されている大学府は外廷にあるんだけど、この研究院は皇帝陛下から大医術師個人に贈られた宮殿なのだ。
何故内廷に有るのかというと、普通に皇帝陛下が急病で倒れたりした時に直ぐ駆け付ける為だよね。
それはどうでも良いんだけど、要は研究院に行くには皇帝陛下のお膝元である内廷に、行かなければならないのだ。
厳密に言えば外廷も王宮の一部なワケだから、今も魔法学校時代も皇帝陛下のお膝元にいることになるんだろうけど、外廷と内廷では距離感が全く違う。
そもそも外廷合わせて考えたらこの王宮の敷地面積は約700,000㎡………僕の育った村より普通に大きいし、言わば一つの街みたいなものなのだ。
………何が言いたいかお分かりだろうか?
「滅茶苦茶緊張する!!!」
そう、美味な朝食を堪能した僕は今内廷の門の前に来ているのだ。
最初は何とも思ってなかったんだよ?
寧ろ尊敬するカースィム様に会える喜びとか興奮とかで一杯だった。
でも近づくにつれ大きくなっていく門の圧倒的な存在感は僕の繊細な心臓を縮ませるには充分だった。
「……別に門一つくぐるだけで何も大した事はねぇぞ?」
「大した事有ります!内廷ですよ内廷!国のトップがズラリと顔を並ばせてるんですよ!?」
何か粗相して見咎められたらどうしよう!罪人だってバレたらどうしよう!バレなくても気にくわないとかで殺されちゃったらどうしよう!
さっきからそんな不安が頭を過って過って仕方がない。
「……お前とんでもねぇ事考えてるけどそんな非常識人間の集団じゃないからな?一応聖書に最も通じてるとされる人達だからな?」
「でも偉い人ばかりなんでしょ?場違いじゃないですか僕!?」
「別にこの中でも何百人もの奴隷が働いてるんだから……。」
「でもでもでも!やっぱり内廷の使用人さんはやっぱり階級が違うじゃないですか!奴隷とは言っても出世頭じゃないですか!」
「そりゃまあそうだけど、今更怖じ気づいたってしょうがねぇだろ?」
「でも……」
「だあああっ!面倒臭ぇ!!最高権力者にあんだけ楯突いたんだからもう怖いもんなんて無えだろ!!」
陛下でも無い限り大宰相サマより位の高いヤツなんて居ねえよ!
そう怒鳴りつけたバーティンさんに、ハタと我にかえる。
「…………そう言えば、ファサイル様ってエライ人でしたね。」
そんな肩書きよりもとにかくドSだしド変態だしが印象に残り過ぎてて忘れてた。
「エライ人っていうか、物凄く偉い人な……。」
お前が小心者なのか大胆なのか分かんねぇよ、、とバーティンはゲッソリとする。
「とにかくだ、お前も俺もその大宰相サマの使用人なんだから、胸張って入れば誰も怪しまねえしチョッカイもかけねえよ。」
「そっか……。」
「だからホラ、とっとと入って医学院行くぞ!」
「ゲホッ!」
ガシリと首に腕を回されて思わず咳き込む。
ただ、乱暴だけど力強いその腕に幾分か不安が薄れた気がした。
「何も心配するこたーないさ。魔法は使えねーが腕には自信があるし、一応国屈指の高級魔術師である大医師サマは宰相サマの友人で見方だ。お前一人くらい、いくらでも守れる。」
「そう、ですね。。」
自分に力は無くても、守ってくれる人が居る。
大宰相ファサイル様という、大きな大きな後ろ楯。
……それが僕の支払った代償の対価なんだ。
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