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32、研究
「君がラヒーム君?」
「あっはい!」
研究院に着くや否や満面の笑みで出迎えてくれたのは、ボサボサの黒髪を後ろで一つに束ね、小さな顔には明らかにサイズの合わない眼鏡を掛けた青年だった。
……研修生かな?
院内を見回したところ、この人以外に人の気配が全く無いんだけど、、
「あの、カースィム大医師は……。」
「僕がカースィムだけど」
「へ?!」
この人が、大医師!?
思わず二度見してしまった僕に男の人……カースィム様が苦笑いする。
「よく驚かれるんだよねー。そんなにイメージと違うかなあ?」
……全然違います。
だって、カースィム様といえば先ず頭に浮かぶのは魔法学校の壁に飾られている肖像画のお顔だ。
長い黒髭を蓄えた厳めしい顔で、こちらを射抜くような視線を寄越すあの肖像画……。
しかし目の前にいる大医師様は格好もラフだし笑うとエクボが見えるし、髭も無いし、優しげなお兄さんにしか見えない。
けれども胸元を見ると、確かに高級魔術師の称号である紫のバッジがつけられている。
「ご、ごめんなさいっ、失礼しました!!」
御本人なのに気づかないだなんて、不興を買ってしまったに違いない。
無礼者っ!と追い返されても仕方がない。
折角あんな取り引きに応じてまで勝ち取った大事なツテなのに……。
どうしよう……!
「気にすんな、こいつが大医師だなんて分かるヤツの方が少ねえんだから。」
いや、バーティンさんに言われても……。
恐々とカースィム様の顔色を窺うと、ダークブラウンの瞳と目が合った。
「バーティンの言う通りだから大丈夫だよ?そもそも皇帝お抱えの医師なんて、常時王宮内に待機しなきゃいけないから人に会わないしねえ。僕の顔知ってる人なんて、陛下の側近か医術科の研修生くらいだよ。」
良かった……。
ニコニコと笑いながら同調したカースィムに、ラヒームはホッと息をついた。
「じゃあ俺は用事あるから、大医師サマ後は宜しく。」
「オッケー、ファサイルに宜しく伝えておいてね。」
「あー、午後の会議終わったら直接コイツを迎えに来るって言ってたし、その時伝えれば?」
「ファサイルが?二回も来るなんて珍しい……。」
「まあ、な。そういう事だからラヒーム、夕刻まで頑張れよ。」
どういう風の吹きまわしだろう、と首を傾げたカースィムに、バーティンは含み笑いをして去って行った。
「ふぅん……。ラヒーム君 、ね。じゃあ早速だけど薬草の分類手伝ってくれる?今朝届いたんだけど多過ぎて困ってるんだ。」
「はい!」
取り敢えず、怖そうな人じゃなくて良かった。
それに掃除とかではなく薬草の分類。
下仕事には変わり無いけど、ちょっとでも自分の知識を生かせる仕事だし、なかなかお目にかかれない高価な薬草が見れるかもしれない。
ラヒームは充実しそうな仕事の内容に胸を弾ませながら、カースィムの後をついていった。
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毎日投稿が目標と言いながら一週間くらいサボっておりました鶸萌葱ですm(__)m
リアクション、お気に入り、ありがとうございます(^_^;)))
読んで下さっている読者の皆様には大変申し訳ないのですが、諸々の事情でリアルの方が多忙になり毎日投稿が難しくなりました。この作品を続けたいという意思はあるので、不定期ではありますが投稿は続行します。出来る範囲で精一杯自分も楽しみつつ頑張りますので今後ともどうぞ宜しくお願いしますm(__)m
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