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窓越しの西日で色褪せていた視界に彼は訪れた。
全速力で走ってきたのか、長めの黒髪が乱れている。
カラスの翼を髣髴とさせる艶やかな漆黒だった。
「帰るの?」
「……帰るけど」
「じゃあ俺も帰る」
反対側の靴棚から深山木が取り出した革靴を目にして僕は眉根を寄せた。
泥などがこびりついていて、いやに薄汚れている。
こいつ、中学校で使っていたものを引き続き使っているのだろうか?
僕は戸惑いながらも深山木と一緒に校舎を後にした。
校門を抜け、急な坂道を下ると和らいだ光に滲む閑散とした町並みが見下ろせた。
町のほぼ中央を流れる河川が小さな光を無数に放っている。
高台に建つ高校。
都市から程遠い郊外。
アスファルトよりも周囲に広がる山林の緑の方が断然多い。
隣を歩く深山木はこんな中途半端な片田舎にそぐわない鮮やかな空気を身に纏っていた。
人目を惹きつける端整な顔立ちをしていて大人びた印象を受ける。
だから泥で汚れた靴がアンバランスで妙に浮いていた。
先程の光景が瞼の裏に引っ掛かっている僕の心臓は相変わらず忙しない鼓動を刻んでいた。
どうして彼が追ってきたのか、それも気になった。
口止めしにきたか。
からかいにでもきたか。
「なぁ、顔、赤い」
突然、深山木が口走った。
僕は彼の顔を見ないで歩き続けた。
小石を一つ、蹴飛ばした。
坂道を下りきるまでもう少しというところでいきなり乱暴に引き寄せられた。
「セックスした事ないの?」
両手で顔を挟み込まれ、至近距離で凝視される。
がむしゃらな行為と直球の質問に僕は戸惑うばかりだ。
何だか瞬きもできなくて、目を見開いて二つの眼を見つめ返す他なかった。
「なぁ、同じ一年だろ? 名前は?」
「渡来 ……」
「下は?」
澄生 、と答えると何が面白かったのか深山木はすごく楽しそうな笑みを浮かべた。
「俺は深山木。深山木由」
そう言って深山木は僕の唇に唇を重ねてきた。
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