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翌朝、予想していたよりも担任の説教が短くて僕は拍子抜けした。
「渡来、深山木と友達なんだなぁ。あいつをよろしく頼むぞ」
勘違いをされたのには困惑したものの、訂正するのも面倒で、僕は曖昧に頷いて慌ただしい職員室を一人後にした。
休み時間、教室では深山木との関係をしつこく尋ねられた。
答えようがなく返事に迷っていたら冷やかしにも似た言葉が辺りを飛び交った。
慌てて否定すると却って怪しまれそうなので黙っていれば、冷やかしがれっきとした中傷に変わり、僕は窓際の席で大量の冷や汗をかいた。
深山木が教室にやってくるとそれらはぴたりとやんだ。
彼は強張っていた僕の顔を覗き込み、今日も一緒に帰ろうと言い、華麗な回れ右をして教室を去っていった。
不意に壁の外から中へ迷い込んできた迷子のアゲハ蝶みたいに深山木は皆の心を瞬時に簡単に攫う……。
どうして深山木は僕に付き纏うのかな。
あんな場面に居合わせて驚いた僕が間抜けで滑稽だったから面白い玩具でも見つけた気分なのかな?
……いや、少しも面白くないって、こんな何の変哲もない同級生。
色白で大人しそうな外見で、行事の集合写真では毎回背景に同化しかかっている。
中学時代に席が隣だった女子から告白され、しどろもどろに断ったら、次の日に相手の友達から散々詰られるような情けない性格だし……。
昨日と同じ道程を歩んでいたのが、河川沿いを離れ、山林の麓に家々が点在する住宅地の方へ逸れた。
僕は眉根を寄せ、相変わらず手首を掴んで前を行く深山木に問いかけてみた。
「どこ行くんだよ」
「俺の家」
ガソリンスタンドと酒屋の間の脇道を通って外壁がくすんだアパート前を通り過ぎた。
お菓子の付録じみた小さな鯉のぼりが窓辺に立てかけられたままになっている。
ゴミ捨て場のそばには錆びついた三輪車が打ち捨てられていた。
途中、軒先で構えていた飼い犬に吠えられた。
深山木は「わん」と一声鳴き返してその家を通り過ぎた。
チリン、と鈴の音がした。
路上に停められた車のボンネットに一匹の三毛猫が丸まっていた。
深山木はわざわざ立ち止まった。
僕を引っ張って三毛猫の寝そべる車へと近づいていく。
差し出された深山木の手に小柄な三毛猫は快く対応した。
「こいつ、人懐っこいんだよ」
骨張った指に頭を擦りつけて三毛猫がグルルと喉を鳴らす。
深山木は長い睫毛を伏せていた。
口元が穏やかな笑みを刻んでいる。
僕は益々こいつがわからなくなった。
「澄生、猫嫌い?」
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