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情けない話、僕は少し深山木が怖かった。
機嫌を損なうとどんな行動に出るかわからない。
だから彼を強く拒む事ができなかった。
「なぁ、澄生の家ってここから近い?」
切り石に上がって窓を開く。
厚いカーテンを払い除けると適度な広さの一間に深山木は帰宅した。
い草の敷物が隙間なく敷かれ、壁際は古めかしい箪笥や行李に占領されている。
中央に捲れた寝具一式、隅には明らかに電波を受信できていない旧型のテレビデオがあった。
「学校からは歩きで帰れるけど、反対方向だから……どうかな」
物置のスペースに暮らしているみたいだ。
箪笥の上からガラスケース越しにフランス人形の青色の眼差しを浴びて、僕はとても口にしづらい感想を抱いた。
「ばぁちゃんと二人暮らし」と、尋ねてもいない僕にそう言い、靴下を脱いだ深山木は万年床らしき蒲団の上であぐらをかいた。
「……ああ、そう」
「じぃちゃんは昼寝してるのかと思ったら死んでたんだって」
受け答えに困る話題ばかり出してくる。
返事をするのも寛ぐのも気が引けて厚手のカーテンを意味もなく掴み、青々と生い茂る庭を眺めた。
蜜蜂が枯れたツツジの花に集っている。
瑞々しい色彩をなくした花弁が何だか無残だった。
「おいでよ、澄生」
深山木が僕を呼んだ。
僕は肩に引っ掛けたバッグの取っ手を握り締めた。
「なー、澄生」
振り返り、ためらいがちに、彼の座り込む蒲団のそばに近寄った。
冴え冴えとした二重瞼の大きな双眸だった。
こちらの心の中まで簡単に見透かしてしまいそうな鋭い光を放っている。
黒々とした眉は精悍ですらあった。
普段の真顔なら映画のスクリーンでも大いに映えるに違いない。
それが、小学生のように満面の笑みを浮かべるものだから、構えていたこっちのペースが変に乱されてしまう。
こいつはどうしてこんな風に笑うのだろう。
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