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チクが目の前で車に轢かれたのは梅雨の最中気紛れに晴れた、こんな蒸し暑い日の昼下がりだった。 美化委員の集会が開かれている普通教室の後ろで僕は伏せていた顔を上げた。 黒板に書かれた美化週間についての注意事項を何度も視線でなぞる。 脳裏に蘇った場面を少しでも曖昧にしたくて、教師の長話に必死で耳を傾けた。 さっさと部活動へ直行してしまったクラスメートの代わりに自らやってきた深山木は、僕の耳に噛みついてきたり腕を抓ったりして、周囲の顰蹙も嫌がる僕の反応も余所に最初はふざけていた。 十分もしない内に急に大人しくなったので横目で窺ってみると、彼は長い腕を下敷きにして堂々と寝ついていた。 「……終わったよ、深山木」 集会が終了した。 他の生徒が欠伸をしつつ教室を後にするのを見、眠りこけている深山木に声をかける。 長い前髪に見え隠れする彼の瞼が開かれる気配はない。 肩を揺すろうかと手を伸ばしかけたが、あどけない表情で熟睡しているものだから起こすのが気の毒に思えてきた。 目が覚めて、僕がいなくなっていたらびっくりするかな。 でも、そんな事したら後が怖いか……。 手持ち無沙汰な僕は黒板に書かれたままになっていた注意事項を消した。 舞い上がるチョークの粉に咳き込んで、席に戻る。 深山木は依然として眠り続けていた。 無防備な口元が惜しみなく曝されていて歯まで覗いていた。 よく寝るなぁ。 それにしても深山木って本当睫毛が長い。 クラスの女子よりも綺麗な肌でニキビの跡すらないし、華があって、人の目をぱっと惹きつける。 それに、しょっちゅう教科書を学校に置いて帰るくせに頭もいい。 中間テストの総合成績が学年で六位。 歴史は前日に山勘で覚えたところが丸々出たと言っていた。 一週間前からこつこつ勉強して何とか平均点に達した僕としては羨ましい限りだ……。 机に頬杖を突いて隣の深山木を眺めていた僕は失笑した。 首筋や耳元を覆う彼の黒髪に糸屑がついている。 とってやろうかと手を伸ばした矢先、深山木の瞼に力が篭もった。 「ん……」 僕は慌てて手を引っ込めた。 糸屑がふわりと床に落ちる。 喉奥で気持ちよさそうに唸った深山木は伸びを一つして机にだらしなく預けていた上体を起こした。

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