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「あれ、澄生……何でいるの?」
突然の目覚めに動揺している僕をぼんやりと見つめ、次に辺りを見回して、寝惚けていた深山木は目頭を擦って大きな欠伸をした。
「ああ、学校か……何時間目だっけ……?」
覚醒しきれていない深山木につい吹き出す。
彼を席から立たせて、一緒に下校し、僕は気がついた。
深山木をあんなに長く見つめたのは初めてかもしれない。
「夏休みになったらさ、澄生、泊まりにおいでよ」
土手を下りた深山木が草花の生え重なる河原を突き進む。
春休みに購入したという革靴は最初に目にした時よりも随分と汚れていた。
ここで暮らすようになってから他の持ち物もたくさん汚したらしい。
興味を引かれると形振り構わず自分にとって物珍しい対象へ向かっていくからだろう。
ゆらゆら舞う紋白蝶を本気で追いかけて溝にはまったり、野良猫に構い過ぎて飛びつかれたり。
こんな片田舎に似つかわしくない。
最初はそう感じていた。
だけど飾らない深山木の子供じみた奔放さは緑溢れる自然にすんなり受け入れられているようだった。
「ずっと一緒にいようよ。夜に怖い話とか教えて? この辺って幽霊スポットとかありそうだし」
空を見上げたままの深山木が危なっかしい様子で前を歩く。
水の中に落ちやしないかとハラハラしつつ、僕は彼の後を追う。
深山木は親のところへ帰らないのだろうか。
それとも親が深山木の元へやってくるのだろうか?
そういえば、こいつの口から「ばぁちゃん」以外の家族の名をまだ一度も聞いていない……。
教師を襲った。
刃傷沙汰の喧嘩をした。
深山木の過去を詮索する噂はいくつもあった。
僕はその辺の真偽について深山木に尋ねた事がなかった。
どうしてここへ引っ越してきたのかも。
聞けば、深山木は何でもない事のように教えてくれるかもしれない。
でも知らない方がいいような気がした。
「一番星だ」
僕は深山木が指差した先を見た。
見慣れていたはずの夕焼けが美しく目に写るのは、きっと、深山木の感動が伝染したからに違いない。
その日は母屋にお邪魔して夕飯をご馳走になった。
身のこなしが若々しくて、到底僕には「ばぁちゃん」と呼べそうにもないその人の手伝いを深山木は積極的に行っていた。
そうして出来上がった野菜炒めと魚の煮つけがとてもおいしくて、僕は深山木の意外な一面を新たに発見したのだった。
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