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一学期の期末テストを無難な成績でクリアし、汗に塗れた球技大会を終えて夏休みとなった。 携帯電話を持たない僕と深山木は互いの家の電話番号も知らなくて、会う場合、僕が独断で深山木の元を訪れるのみだった。 庭先から伺ってみると深山木はたいてい離れにいた。 時々母屋で掃除や食事の手伝いをしている事もあれば、庭に水を撒いている事もあった。 草いきれと深山木の組み合わせは陽炎の立ち昇るアスファルトを歩いてきた僕には刺激が強過ぎた。 毎回、噎せ返りそうになって喉が焦げつくようだった。 八月のお盆前、我が家では毎年恒例の墓掃除がある。 僕が小学生の頃は家族総出でこなしていたが、両親がリタイアし、近年は夏休みで帰省した大学生の姉と二人で取り掛かっていた。 それが今年は姉が夏風邪で寝込んでしまい、一人で墓掃除に挑む羽目となった。 まだ日の高い五時過ぎ、鍔が広めの帽子を被り首にタオルを巻きつけて小高い丘の上にある墓地を目指す。 到着すると早速軍手をはめ、頭の中で決めていた段取り通りに作業を進めた。 蝉時雨がうるさい。 めちゃくちゃ暑い。 汗が滴り落ちてくる、目に入ったら沁みるだろうな。 頭上の枝を植木バサミで切り落としていたら梢にくっついていた空蝉を見つけた。 深山木に見せたらきっと大喜びするだろう。 でもあの庭に転がっていてもおかしくないか。 行く度にそこら中から蝉の鳴き声がしていたから。 今頃、何をしているだろう。 夕飯の準備をしている。 遅い昼寝の最中、庭の水撒き。 そのどれか。 手首で顔の汗を拭って、何故だか笑いが込み上げてきて、僕は一人こっそりと笑った……。 「澄生!」 だから、その時は幻聴かと思った。

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