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その日の放課後、僕は初めて深山木とバスに乗るはずだった。 「先生」 他の生徒に紛れて校門を抜け、坂道を下りていたら深山木が突然立ち止まった。 彼は坂道の下で佇む男の人を凝視していた。 粉雪がうっすらと積もったような色合いの髪が何となく目を引く。 スーツを着ており、誰かを待っているような様子でこちらを見上げていた。 一緒に足を止めていた僕を見もせずに、深山木は、急斜面を転がるように駆け出した。 言葉をかける暇もなかった。 不意に起こった風がふわりと頬に当たる。 解かれていた漆黒の髪が靡いて、一瞬、翼のように舞い上がるのを見送った。 彼の前に深山木が辿り着く。 どんな表情をしているのか僕にはわからない。 ただ、相手の男の人が静かに微笑んで深山木を出迎えたのは窺えた。 父親だろうか?  いや、違う。 確か深山木は「先生」って呼んだ。 中学校時の担任だろうか。 僕はとりあえず向かい合う二人の元へと近づいた。 「澄生、ほら、先生だよ」 何ていう紹介の仕方だ。 楽しげに「ほら」って言われても困る。 僕は軽く頭を下げ、次の言葉に完全に迷った。 何故だか先生も口を閉じてしまっている。 静かな笑みで表情を飾ったまま無言で僕を見つめてきた。 優しげなのか、寂しいのか、苦しいのか。 掴みどころのない不思議な微笑だった。 「先生、澄生だよ。澄生が今、俺に色んな事を教えてくれる先生みたいな人なんだ」 「そうですか」 先生がようやく開口する。 たじろぐ程に真っ直ぐ注がれていた視線が深山木へ移動した。 「元気そうで何よりです、由君」

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