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4-2
その日の放課後、僕は初めて深山木とバスに乗るはずだった。
「先生」
他の生徒に紛れて校門を抜け、坂道を下りていたら深山木が突然立ち止まった。
彼は坂道の下で佇む男の人を凝視していた。
粉雪がうっすらと積もったような色合いの髪が何となく目を引く。
スーツを着ており、誰かを待っているような様子でこちらを見上げていた。
一緒に足を止めていた僕を見もせずに、深山木は、急斜面を転がるように駆け出した。
言葉をかける暇もなかった。
不意に起こった風がふわりと頬に当たる。
解かれていた漆黒の髪が靡いて、一瞬、翼のように舞い上がるのを見送った。
彼の前に深山木が辿り着く。
どんな表情をしているのか僕にはわからない。
ただ、相手の男の人が静かに微笑んで深山木を出迎えたのは窺えた。
父親だろうか?
いや、違う。
確か深山木は「先生」って呼んだ。
中学校時の担任だろうか。
僕はとりあえず向かい合う二人の元へと近づいた。
「澄生、ほら、先生だよ」
何ていう紹介の仕方だ。
楽しげに「ほら」って言われても困る。
僕は軽く頭を下げ、次の言葉に完全に迷った。
何故だか先生も口を閉じてしまっている。
静かな笑みで表情を飾ったまま無言で僕を見つめてきた。
優しげなのか、寂しいのか、苦しいのか。
掴みどころのない不思議な微笑だった。
「先生、澄生だよ。澄生が今、俺に色んな事を教えてくれる先生みたいな人なんだ」
「そうですか」
先生がようやく開口する。
たじろぐ程に真っ直ぐ注がれていた視線が深山木へ移動した。
「元気そうで何よりです、由君」
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