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妙な緊張感の寄り添う帰り道が始まった。
乾いた青空を細かに区切る電線や擦れ違う見知らぬ人の足元、車のナンバーなど、普段あまり気にしていないものに僕は目線を泳がせた。
疑問はあった。
だけど不慣れな緊張が邪魔をしてうまく声を発せられない。
先生を見るのも億劫だった。
だって僕はこの人をまるで知らない。
いきなり現れたかと思ったら、もう、隣に並んでいる。
急な出来事に頭がついていかなかった。
「澄生君は」
僕は不自然なくらいの勢いのよさで先生を仰ぎ見た。
先生は僕を見下ろしていた。
この人、ずっと僕を見ていたのだろうか。
「ここが好きですか?」
「え」
思いがけない質問に立ち止まりそうになる。
それを察した先生は僕よりも先に足を止めた。
薄い色の瞳が秋空を反射してより澄んでいるように感じられた。
「あの、僕はずっとここにいるので……好きとか嫌いとか、深く考えた事はないです。だけど……」
先生に向かって話をしていたらふと河原ではしゃぐ深山木が脳裏に浮かんだ。
いちいち何にでも興味を示して感動していた小さな子供じみた彼を。
「……ずっと住んでいるから新鮮味もなくて、何もかも中途半端な感じがして。けれど最近、夕方から夜に変わる空とか、そこの川とか、教室の窓から見える景色が色づいて見えるようになって、それがいいなぁって……」
答えになっているだろうか。
僕は喋っている途中で不安になり、言葉を切った。
「私もそうです」
僕の肩を抱いて歩行を促した先生はそう言った。
この人は、ここをよく知っているのかな。
この人は深山木について詳しく知っているのだろうか。
「あの……」
「何でしょう?」
いや、この人に聞くのは間違っている。
しかも本人のいない場所で。
僕は咄嗟に口をつぐんだ。
先生はもう一度聞き返してくるでもなく僕の隣に言葉少なめに寄り添っていた。
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