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4-5
翌日の放課後、僕は初めて深山木と一緒にバスに乗った。
一台乗り換え、座席の窓を一ヶ所だけ全開にして国道沿いの長閑な風景を眺める。
長袖を肘まで捲り上げた深山木は片腕を窓枠に乗せていた。
解かれた黒髪が風に乱れていて、興味を引かれるものがあれば指を差して問いかけてくる。
その度に知識や記憶を総動員して答えてやり、どうしてもわからない場合は適当に誤魔化した。
深山木は僕のあやふやな回答に真剣に相槌を打って感心していた。
「澄生って物知りだな」
飛行機雲を仰ぎ見ている深山木を見、僕は少し切なくなった。
最近、帰宅が遅い理由を母親に追求されるようになった。
深山木の祖母は僕達の関係に気づいていないのだろうか。
会話にすら一度も出てこないこいつの両親は……?
「澄生、まだ?」
僕ははっとした。
辺りを見回してすでに目的地を乗り越しているとわかり、慌てて停車ボタンを押す。
着いたバス停は見覚えのある桜並木の近くだった。
来た道を五分程歩いて引き返せばホテルの看板が見えてくるはずである。
「まだ明るいね。でも幽霊に時間なんて関係ないよな。こっちの世界とは勝手が違うだろうし」
僕にはよくわからない内容の台詞を呟いたりして深山木は一人笑っていた。
歩道と接する杉林を覗き込んでは立ち入り禁止の奥へ進もうとする。
その度に腕を引っ張って行き先を修正してやった。
考えないようにしていたのが、最近、気がつけば深山木の事ばかり考えている。
疑問が生まれて、答えが知りたくて、本人に聞こうかどうしようか迷っている。
こいつは何の迷いもなく同じ質問だってぶつけてくるっていうのに……踏み止まっている自分が何だか馬鹿みたいだ。
「……なぁ、深山木」
空き缶のポイ捨てを戒める看板を眺めていた深山木がこちらを向いた。
思いきって疑問をぶつけようとしたら彼の言葉に先を越された。
「澄生、怖い幽霊が出てきても俺の事置いていったりしないで」
深山木のその言葉を耳にして、僕は、少し笑った。
意識し過ぎて凝り固まっていた頭の中が冗談めいた台詞によって解されたような気分になった。
僕は今さらな質問をやっと深山木へ伝える事ができた。
「深山木って、どうして、ここへやってきたんだ?」
深山木は僕の質問を背中で受け止めた。
木陰で薄青く染められたシャツの裾を風にはためかせて、彼は、やはり何でもない事のように僕に教えてくれた。
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