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「お母さんが死んだんだ」 すぐ横を快速に走り抜けていく車の走行音に掻き消されないよう、深山木は声を張り上げた。 「二年前に。ある日、いきなり」 歩道に僕達以外の通行人はいない。 ガードレール越しに大型トラックが立て続けに走り抜けていく。 「その一年後にお父さんが死んじゃった」 「……本当に?」 「本当に」 生き物の気配がないかと杉林の奥に目を凝らしつつ深山木は頷いた。 「それもいきなりだった」 僕はいつの間にか立ち止まっていた。 トラックが撒き散らす排気ガスや廃墟の事も忘れ、振り返った深山木をただ呆然と見返していた。 「だからここに来たんだ」 快活に笑う。 話の内容と表情が全く噛み合っていない。 僕は途方に暮れる気分でその場に立ち尽くした。 カーブミラーの近くに立っていた深山木は僕の元へと引き返してきた。 無言で手をとられて引っ張られ、停止していた足が前へと進んだ。 一際黒い煙がそばで舞い上がる。 けたたましいエンジン音に鼓膜が不快に振動した。 両親が二人とも死んだ? 母親が死んだ一年後に父親が? 「あれだ!」 木隠れの廃墟を見つけた深山木が駆け足となる。 手を繋がれていた僕も走らざるをえなくなった。 本道を逸れてアプローチの緩やかな坂道を小走りに上る。 途中に設置されたフェンス前でとりあえず深山木は足を止め、立ち入り禁止と印字された貼り紙の次に、この位置からでも視界に入る廃墟をまじまじと眺めた。 洋館の造りに似せたホテルは雑木林の中に佇んでいた。 木立が日の光を制限しているために薄暗い。 人気はなく、この時間帯においても陰気臭く不気味であった。 「へぇ、本当にあった。蔦がいっぱいだ。すごいな」 深山木がフェンスにしがみついて感嘆の声を上げた。 他人事のように笑顔で話を続けた深山木が信じられなかった。 どれだけ傷ついたのか、その深さはどれ程だったのか。 それは癒えたのか?

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