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かけがえのないものをなくした。
僕なら喉が嗄れるまで泣いて、呼吸ができなくなるくらい苦しくなって、そして……。
どうして僕は聞いてしまったんだろう。
こんな風にまるで自分の事のように胸が痛んでざわつくくらいなら聞かなきゃよかった。
やっぱり知るべきじゃなかったんだ。
「澄生」
気がつくと背中を屈めた深山木が僕を覗き込んでいた。
いつもと同じ屈託のない笑みを浮かべ、キスしようと、顔を近づけてくる。
「深山木、もう」
僕は彼から顔を背けて項垂れた。
木立の奥でカラスが鳴いている。
車の走行音がやけに遠くに感じられた。
「もうやめよう」
胸が軋んでいた。
音を立てて裂けていってしまいそうな鋭い痛みを伴っていて、とてつもなく煩わしい感覚だった。
「もう深山木とは話さない……何かおかしいよ、お前」
痛みを与えたのは深山木だ。
これ以上悪化しないよう、自分自身を守るため、僕は受け身の刃を振るう。
「もうお前とは一緒にいたくない」
深山木の顔を見ずに一人来た道を戻って帰宅した、その日の夜。
寝苦しい最中に鳥の鳴き声を聞いた。
すぐ近くのような、それでいて遠いような気もする。
誰かを呼んでいるような寂しげな声に引き寄せられて僕は窓辺に立ってみた。
カーテンを細く開き、常夜灯の明かりに浮かび上がる家並みを見回す。
それは不意に飛び立った。
隣の家から斜向かいの屋根へと、スローモーションのように。
闇よりも黒い翼が夜空に翻って羽ばたいた。
窓に頬を押しつけた僕は深山木が夜に鳴く鳥がいると話していたのを思い出した。
鳥は掠れた声で鳴き続け、住人が寝静まった家々の屋根を超えていった。
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