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「死んだら会わずにいられる」 笑いながら泣いている深山木の手首を血が濡らしていた。 深く切りつけたらしい。 手の甲から指先へと止め処なく伝い落ち、彼の足元には血溜まりができている。 「そうでもしなきゃ会いにいくから」 静かな、投げやりな、どこか狂った泣き方だった。 瞼の裏に鮮明に残る血の滴りが思考を麻痺させて僕はしばらくベッドから起き上がれずにいた。 怖い夢だった。 リアルで、血が零れ落ちる音さえも聞こえてきそうだった。 見覚えのない深山木の泣き顔にも違和感がなかった。 本当に目の前で涙しているみたいで……。 ……もう考えないって、決めたんだ。 僕は寝不足で催した頭痛に呻きつつベッドを這い出した。 昨日、あいつは追いかけてこなかった。 どんな表情をしていたのかはわからないけれど何も言い返さず、じっとしていた。 あの後、ちゃんと一人で家に帰れただろうか。 少し言い過ぎた……? ……駄目だ。 考えたくないのに考えてしまう。 覚束ない手つきで制服に着替え、朝食を殆ど残して僕は学校へ向かった。 いつもと何ら違わない朝の風景の中、ふとした拍子に意識が落とし穴へ転がり落ちそうになった。 その下は深山木の手首を鮮やかに染めていた血の海だ。 生々しい色合いはいつまでも薄れず、教室に着いても瞼の裏へ赤い波が執拗に打ち寄せてきた。 近くにいた男子生徒がテレビ番組の話題で盛り上がっていた。 まだ背後で口を開けている落とし穴に片足をとられかけていた僕は興味もない内容の話に耳をそばだてた。 とにかく夢の残像を追い払いたかった。 とても嫌な夢だったからだ。 凍てついていて、怖くて、苦しくて……。 一番嫌だったのは血を流す深山木をただ見ているしかできなかった事だ。 血を止めてやりたいのに近づけなかった。 分厚いガラスを隔てた先の出来事であるかのように、声も手も届かず、僕はただ無力だった。 深山木。 お前まさか本当にあんな真似していないよな? 不吉な恐れに心臓が跳ねた。 いても立ってもいられなくなり、隣の教室を覗いてみる。 深山木の姿はなく、クラスメートに尋ねるとまだ来ていないと返答された。 行き先に迷った僕は廊下の隅で放心した。 真夜中に闇の中を羽ばたいていった黒い鳥。 あれは深山木だったのではと、馬鹿げた妄想にまで及んでしまう。 僕を呼んでいたのではないかと思えてきてしまう……。

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