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僕達の横を誰かの運転するバイクが通り過ぎていく。
些細な風に吹かれ、全身の汗が一気に冷たさを帯びて皮膚に襲いかかってきた。
「由君は昨日、夕飯の手伝いをしている時に包丁で手首を切ろうとしました」
こめかみを流れていく汗の雫が不快で、でも拭う事もできなくて、その場で凍りついた。
「澄生君」
みるみる青ざめていった僕に今度はしっかりとした呼びかけが届く。
「由君は自分で思い止まりましたから。大丈夫」
僕は先生に支えられて家の門を潜った。
何かに揺さぶられているかのように頭の中がぐらついていて気分が悪かった。
視界まで狭まってきている。
自分を引いてくれる先生の腕だけが頼りだった。
「澄生君、これを見てもらえますか」
僕は伏せていた顔を上げる。
いつもは素通りする母屋の玄関前までいつの間にか案内されていた。
先生は擦りガラスのはめ込まれた引き戸の前に佇み、白い壁に掲げられた表札を指差していた。
「ここは私の生家です」
初めて目にするそこには深山木とは別の苗字が記されていた。
「父は亡くなり、母が今、ここに住んでいます。血縁関係のない深山木由君という少年と一緒に」
深山木の祖母だと思い込んでいた「ばあちゃん」は先生の母親……?
「……先生は……」
「私は由君の父親の友人でした。大学で講師をしています。澄生君、中へどうぞ」
母屋の玄関から中へ入るのも初めてだった。
意識は内に篭もっていて実感も何もなく、定まらない思考の中、片づけられた居間に通された。
「彼の両親について何か聞いていますか?」
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