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6-1 最終章
「なぁ、深山木。またあそこに行こうか」
泣きやんだ深山木を僕はあの廃墟へ誘った。
「幽霊、見たがってただろ?」
こんなにも晴れた日の午前中に幽霊の有無を確かめにいくなんて馬鹿げた話かもしれない。
深山木が笑顔を浮かべてくれるのなら何だってよかった……。
僕達はフェンスをよじ登って向こう側へ降り立った。
近くで目にする廃墟はやはり古めかしい洋館の佇まいであった。
切妻屋根と灰色の壁には夥しい蔦がびっしりと這っている。
天辺に掲げられた看板は黒ずんでいてゴシック体の文字もところどころ欠けており、正式な名称はわからない。
二階建てで、出窓は閉じられているものもあればガラスが派手に割れているものもあった。
一階部分に車庫がずらりと並んでいる。
奥の暗がりに見える階段がそれぞれの部屋に通じているようだ。
行きのバスの中では口数の少ない深山木であったが、今は双眸を見張らせて一心に廃墟を仰ぎ見ていた。
「いいなぁ」
七分のシャツもジーンズもスニーカーも黒で統一している深山木に昨夜の鳥の姿が否応なしに重なる。
僕は何とも言えない不思議な感覚に囚われていた。
真夜中に羽ばたいていった鳥。
衝撃だった既視感。
幽霊が出ると噂される廃墟。
現実と幻想の境界線が曖昧にされているみたいだった。
林と一体化した、時の流れに置いてきぼりにされたようなこの場所だと一層白昼夢のど真ん中を浮遊している気分にさせられる。
ちょっとした心細さを覚えるくらいであった。
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