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「俺、裏見てくる」   僕の気も知らないで深山木は廃墟の裏手へと一人駆けていってしまった。 どうして手を引いて連れていってくれないのだろう。 ここで待つのも何だし、追いかけようか?  でもすぐに戻ってくるかな……。 迷っていたら後を追いかけるのも今さらな気がし、廃墟の傍らに設置された雨曝しのベンチに座って深山木を待つ事にした。 もしかしたら深山木は死んだ両親の影を追い求めているのかもしれない。 吹きつける風に無数の梢がさわさわと揺れた。 砂利道に落ちた葉陰も揺らめいている。 喉を反らすとブナの枝葉の合間に真っ青な空が覗いていた。 もう十一時は過ぎたかな。 きっと家に早退の連絡がいったはずだ。 後で電話をかけた方がいいだろうな……。 思考が現実側に傾いた時、ふと、僕の耳にその声は届いた。 背もたれに身を沈めていた上体を起こしてそちらを見る。 ベンチの後ろには雑木林が迫っている。 生き物なんか、いないって、思い込んでいた。 一匹の黒猫がちょこんと座っていた。

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