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「俺、澄生だけは……澄生にだけはそばにいてほしかった。澄生が一緒にいてくれるのなら他には何もいらなかったから……ごめん」   僕は首を左右に振った。 「謝らないでいい、深山木」 深山木の手の上に掌を重ねて力を込めた。 伏せていた顔を上げて深山木がこちらを見つめてくる。 「悪いのは僕だから。怖がりで臆病で……逃げてばかりだったから」 「怖がるって?」 膝の上の温もりと掌に覚える確かな体温に胸がいっぱいになって、言葉が支えそうになるのを何とか堪えて、今まで誰にも告げた事のない僕の傷口について深山木に明かした。 「僕は誰かを好きになる事が怖かった。いつか、チクみたいに僕の前から突然……馬鹿げてるけど……あんなに苦しい思いをするくらいなら誰も好きになんかなりたくなかった」 話している途中で涙が出てきた。 深山木が驚いているのがひしひしと伝わってくる。 流れた涙の雫が漆黒の毛に落ちて、冷たい感触にびっくりしたのか、金色の眼を丸くして黒猫が僕を仰いだ。 死んでも会いたい。 深山木の言葉が胸に突き刺さった。 この地上から消え果てても、それでも、生と死の境界線を越えて僕に会いたいって。 そう言ってくれる深山木が何よりも恋しかった。 「澄生、泣くなよ」 僕は驚いた。 僕の隣で深山木も泣いていた。 大きな双眸に再び涙を溜めて頬を濡らし、こちらをじっと覗き込んでいた。 「深山木……」 僕達は誰よりもそばにいる。 互いの過去の傷口に燻る痛みでさえまるで自分が経験したもののように感じ取り、共有して。 互いの存在がいつか包帯になって痛みを和らげていく事ができるかもしれない。 僕は隣で涙する深山木にキスをした。

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