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チクに会えたからもういいと、深山木は廃墟の探索を呆気なく切り上げた。 僕達は黒猫とお別れをして帰りのバスに乗った。 あっという間に熟睡した深山木を起こすのは可哀想で、終点まで乗り越し、ゴミだらけの汚れた海岸を散歩して定食屋でラーメンを食べて彼の家へ帰った。 母屋にいるのか外出しているのか。 先生の姿は見当たらなかった。 「ばぁちゃん、町内会の旅行に出かけてるんだ」 日向の匂いがする万年床に裸足となった深山木があぐらをかく。 厚手のカーテンを雑に締め、彼の近くに座って僕も靴下を脱いだ。 「うん。朝に会って聞いたよ」 ばぁちゃんは昨晩の台所での出来事を知らない。 先生が言っていた。 命日の事も、深山木の詳細も。 ある日先生が連れてきた見ず知らずの少年を掻い摘んだ経緯を聞いた程度ですんなり受け入れたそうだ。 「温泉だって。露天風呂があって、カラオケもあるって」 手首を掴まれた。 さらに近くへ引き寄せられて首筋に息がかかり、軽く甘噛みされる。 気の早い手がシャツのボタンを外しにかかっていた。 「今日、泊まって?」 「うん……」 家も学校も、どうでもよかった。 深山木とキスをし、裸になって抱き合い、全身を重ねていたら何もかもがどうでもよく思えた。 今のこの時間だけが全てで他の事は何も考えられない。 傷つくのが怖くて好きにならないよう頑なに閉ざしていた世界にヒビが入ったのはいつだったのだろう。

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