10 / 337

シルバの正体⑤

「銀波っ!戻れっ!ダメだ!!」 「やだっ!ママと離れるの、やだっ!」 ママ?ママって…俺? 銀波?やっぱりこの子は…犬のシルバ? 「あのー…説明してもらってもいいですかね?」 冷静な俺の台詞に、諦めたように大きなため息をついた須崎さんが、シルバ(!?)を俺から引き離し、起き上がらせてくれた。 「…どうも。お茶、入れてきます…」 子供がシルバ? シルバが子供?耳…生えてるぞ? 頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされたまま、熱い煎茶とシルバ用にオレンジジュースをテーブルに置いた。 「…この子…シルバ…ですよね?」 恐る恐る尋ねると、意を決したように須崎さんが答えた。 「ええ、そうです。」 シルバは須崎さんの隣に正座して、俯いて座っていた。 耳は見事に倒れている。 シルバは濡れた目で俺を真っ直ぐに見つめて言った。 「僕…道に迷って帰り道わかんなくなって…お腹空いてきて…もう、死んじゃうと思ってたら… ママが助けてくれたの。 お腹いっぱいご飯食べさせてくれて…お風呂に入れてきれいにして、たくさん遊んでくれた。 夜、一人は寂しくて泣いたら、お布団で一緒に寝てくれた。 お仕事のところへも連れて行ってくれた。 おじさん達も、いっぱい遊んでくれたよ。 僕、ママとずっと一緒にいたい! ママとお別れするの、いやっ!」 ぽろぽろと大粒の涙を零して泣きじゃくっている。 須崎さんは、その頭をそっと撫でながら 「葛西さんはママじゃないんだよ。」 と優しくささやいた。

ともだちにシェアしよう!